文字通り重力を人為的に制御すること。人類が無重量の宇宙へ進出していく過程においてこの技術の完成は避けては通れない命題であった。というのも無重量という状態は人類にとって特異な環境であり、そこでは人類の身体は急速に衰弱していく。そこで人類が宇宙に長期的に滞在するには、重力を人為的に発生させうる技術が必要とされるのである。その為に幾人もの科学者がこの研究に生涯をささげてきた。その中で2005年、日本の平田昭子博士が「ヒッグス場のポテンシャルエネルギー変換」によって世界で初めてその制御に成功し、公開実験の段階までこぎつけるに至る。しかし、いざ実験という段階において、制御装置は働かず、公開実験は失敗に終ってしまう。これは理論に重きを置き、反復実験を怠る傾向を持つ平田博士の個人的特性が招いた不運といえよう。しかし、理論自体は非常に完成度が高く、平田博士とその制御装置を素体としたEI−20は都市機能を完全に麻痺させる程の強い重力を発生させることに成功している。平田博士は浄解後、実験失敗の挫折から立ち直り、理論を再構築、高之橋両輔博士の助力と、新生GGGの本拠を宇宙に置くことを決定していた国連の援助をうけて、重力制御装置の実用化を実現した。その実用例第一号がGGGオービットベースの重力制御ユニットと人工重力発生システムである。
平田博士の重力制御理論の要はヒッグス粒子である。ヒッグス粒子は、1983年加速器を使用した「電弱統一理論」の検証実験の結果からイギリスのヒッグスが提案したもので、すべての素粒子に質量を与える性質を持つといわれている。
電磁相互作用と弱い相互作用をゲージ理論に基づいて統一する理論「電弱統一理論」は弱い相互作用を媒介するゲージ粒子であるウィークボゾンの存在を予言しており、1983年の実験でウィークボゾンは実際に発見されている。しかし、電磁気力を媒介するゲージ粒子、フォトン(光子)には質量がないにもかかわらず、ウィークボゾンには質量が存在していた。そこで、両者の質量の有無につじつまを合わせ、電磁気力と弱い相互作用を電弱相互作用に統一する存在としてヒッグス粒子が提言されたのである。ヒッグス粒子は質量のない粒子と相互作用を生じ、質量を与える粒子と定義されている。つまり、平田博士の理論はヒッグス粒子に何らかの形で干渉し、あらゆる物質の質量を変化させることを意味する。重力は質量に比例するため、質量を変化させることが出来れば重力も同時に変化する。ただ、ヒッグス粒子は現在の標準理論の根底となり、その有効性も多くの検証を受けてほぼ確立しているものの、いまだに発見されていない。よって平田博士がいかなる手段によってヒッグス粒子への干渉に成功したのか、詳細は国連及びGGGが極秘管理するところとなっており、明らかになっていない。