http://site.add/ 薄明ブレス




■ 2012カカ誕(2) ■


注意

LOVEL●SSの設定を借りています。

『耳と尻尾が付いている=未経験』で『そういう行為をすると耳と尻尾が落ちる』という設定です。

苦手な方はご注意ください。













「カカシ先生、何か?」
にこりと人好きする笑顔を浮かべる。
黒い耳に、カカシが手を伸ばした。
触れて、そのまま撫でる。
血の通った柔らかな耳は、温かかった。
「この耳、俺に頂戴」
口布の下の唇から、掠れた低音ボイスが零れ落ちた。
ざらりと異物を含んだその声音は、イルカのみならず、隣に座っていた彼の同僚の耳にも届き、二人は揃って顔を真っ赤に染めた。
はたけカカシの眼差しと、何よりもその声に、凶悪な程の色気を感じ取ったからだ。
「ねぇ、良いでしょ?俺に貴方の耳と尻尾、落とさせてよ」
ぞくりと背筋に痺れが走ったのか、イルカの背筋が撓って伸びて、そのまま固まった。
普段は腰から下にくるんと垂れている尻尾が、有り得ない程逆毛立ち、肩の辺りから先っぽが覗いている。
イルカの同僚は、酸素を求めるように口をぱくぱくと開閉させて、それ以外の場所は微動だにしなかった。
「……な、なんですかソレ」
「そのまんまの意味。貴方の黒い耳がずっと気になってたの。子供らは大好きみたいだけど、貴方もいい加減その耳とさよならしたいデショ?」
片方の手をズボンのポケットに突っ込んだまま、もう片方の手でイルカの黒い耳を撫で続けている。
腰を屈めると、顔が近付き、右目の深い蒼が良く見えた。
イルカは、下唇に歯を当て、ぎゅっと食い縛った。
羞恥の朱から、憤怒の赤へと、顔色が変わる。
ブルンと身体が震えたのは、武者振いか。
「下手な好奇心も歪んだ親切心も一切必要有りませんから!!」
鼓膜が破れるかと思うばかりの大声を張り上げて、イルカは天下の写輪眼に咬み付いた。
必死な形相で、涙なんかも滲んで、黒い大きな耳もビーンと尖って毛が逆立っている。
周囲がざわめいた。
固唾を飲んで見守るのみで、誰も口を挟めない。
カカシと同じ位の背丈のあるイルカも立ち上がっているから、二人で対峙すると迫力が有った。
「何で怒るの?」
淡々とした調子で、カカシは一歩も引かなかった。
世間的評価では格下のイルカに無礼な態度を取られているにも関わらず、だ。
アスマはその場に文字通り縫い止められ、動けないでいた。
カカシがアスマに知られずにこっそりと足元に描いていた、土遁拘束系の術が発動したからだ。
忌々しげに舌打ちし、指先で煙草の火を揉み消すアスマ。
紅は突然の展開に驚いてはいるものの、傍観の構えを解く気はないようだった。
「貴方程の方が、中忍に嫌がらせだなんて」
「イルカ先生、ちゃんと聞いてなかったデショ。嫌がらせでもお節介でもないよ」
「では、冗談ですか!生憎理解出来る程頭が柔らかくありませんから!」
最初から喧嘩腰で、その勢いが止まる気配が無い。
イルカの様子に、カカシ以外のその場に居た全員が違和感を覚えた。
カカシは小さく笑う。
鼓膜に忍び寄るような、濡れた熱を帯びた笑い声は、イルカの耳朶を真っ赤に染めた。
未経験だから、性的な何もかもに慣れてないのだ。
直ぐに身体が反応して、隠しようも誤魔化しようもない。
「貴方、頭ではちゃんと分かってる筈だ。俺が本気だって。だから、怒った振りをして逃げようとしてる」
カカシは受付の机の上に左足を乗り上げた。
逃げを打つイルカの身体を掴まえて、引き寄せる。
一連の動作は上忍のスピードより少し落ちるが、ギリギリで中忍のイルカが逃げられない速度で行われた。
計算され尽くした動きだった。
「もっと酷い事言われても、サラッと受け流す忍耐力が有るのに、俺にだけそんな態度だ。狡いなぁ。本気の俺から逃げるには、俺を怒らせるか呆れさせるかしかないって、そう判断したの」
図星を突かれたと分かってしまう動揺っぷりをさらけ出して、イルカは言葉に詰まった。
「自分から行くのはOKなのに、他人がぐいぐい迫ってくるのは苦手なんでショ?恋愛観が幼くて、可愛いねぇ」
「ひっ!」
イルカの腰を擦り、長い尻尾の付け根を指で挟んだ。
軽く引っ張るのは、耳と尻尾が取れるような行為を暗示するもので、イルカには恐怖でしかない。
カカシの長い指先は器用にイルカの尻尾を弄んだ。
「貴方は自分が好きになってからじゃないと、恋愛出来ないって思い込んでるみたいだけど、そうじゃないよ」
甘い声は、本当にあのカカシかと疑いたくなる程普段と違っている。
色男の本領発揮という事か。
怖い、怖過ぎる。
周囲を軒並み巻き込んで、カカシは初心なイルカに持てる全ての魅力を発動させて迫った。
「貴方は追い掛けられながらたっぷり愛された方が恋愛が上手く行くタイプだよ。耳だってきっと直ぐに取れる」
憶測で物を言っている訳ではない。
他の誰でも無い、はたけカカシがイルカの耳を落とすと言っているのだ。
イルカの額当てに爪先をコツリと当てて音を出し、耳の根元の黒髪と耳の黒毛が混じる部分の手触りの違いを楽しむ。
カカシの独壇場だった。
「今まで我慢してたけど。貴方が他人に耳の事でちょっかい掛けられるのが、面白くない」
「それは、俺の問題であって……カカシ先生がどうこう思う問題じゃ、無い」
「いーえ、俺の問題でも有るの」
異議を認めず、カカシは昏い光を瞳に宿す。
「一人ずつ引っ捕まえて、報復してやろうかと思いました」
「止めて下さいよ!」
「貴方が嫌がるだろうと思って我慢しました。でも、もう堪忍袋の緒が切れそうだ。だから、耳落として、根本解決を目指すという事で」
机が二人の間に挟まっているというのに、カカシの密着度が高い。
他人の体温の心地好さに流されそうになりつつ、イルカは受付だから公共の場だから他人の目も有るからと、理性に言い聞かせ踏ん張っていた。
落ち着く事無く動く黒耳と黒い尻尾が、イルカの困惑を良く表している。
見ていて気の毒になる位だった。
「俺の耳を、落とすって……男同士じゃないですか」
威嚇を含んだイルカの唸り声が、語った内容にアスマが煙草を噴き出した。
紅が、あらら、と口元を上品に手で隠す。
「アカデミーの先生なのに知らないの?男同士でも入れる方も入れられる方も、耳落ちるよ」
「わ、分かってますよっ!」
「はい嘘。貴方、うっかり忘れてたデショ。天然のボケかますんだから」
「ボケじゃないで、ひゃっぅ?!」
怒鳴り掛けたイルカを腕の力だけで持ち上げて、カカシは机を飛び越えさせた。
油断していたイルカは良いように扱われてしまう。
「お喋りはここまで。さ、耳と尻尾にお別れですよ」
ニヤリと笑って、耳元で囁き、カカシは瞬身の印を組んだ。
イルカが抵抗する間も、周囲が制止する間も無かった。
さすが、一流の忍だと舌を巻く素早さだった。





続きます