http://site.add/ 薄明ブレス




■ 2012カカ誕(1) ■


注意

LOVEL●SSの設定を借りています。
『耳と尻尾が付いている=未経験』で『そういう行為をすると耳と尻尾が落ちる』という設定です。
苦手な方はご注意ください。

















黒い耳。
恥ずかしくなんか無い。
断じてない。
俺は堂々と耳を晒して顔を上げて視線は前に向けて姿勢をしゃんとして、なんら恥じる所の無い一個人として生きて行くのだ。
だから、大丈夫。
陰口なんかに揺れない。
自棄にならない。
恥ずかしいと感じる事自体が間違っているのだ。
黒い耳が二十半ばの男に付いてたって、良いじゃないか!
例えそれが、童貞の証だとしても……っっ!!



+++



「アレはまぁ、恥ずかしいだろうね」
里が誇る写輪眼持ちの上忍が足を組んで片足をブラブラさせながら、視線を斜め前に流す。
収まりの悪い銀髪が動きに合わせてさらりと揺れる。
櫛を入れているのだろうかと不安になるもっさり具合だが、それを馬鹿正直に指摘する中忍も上忍も居ない。
階級が同じだからと気楽に話掛けられると思ってはいけない。
写輪眼は特別扱いなのだ。
受付前に置かれた長ソファーは向かい合わせに二台設置され、最大六人が同時に腰を掛ける事が出来る。
座っているのは上忍ばかり、三人だ。
猿飛アスマ、はたけカカシ、夕日紅という、所謂上忍師チームで、目立つ事この上ないビジュアルの持ち主達だった。
密かに内勤中忍に人気を誇る三人だが、表立って中忍に騒がれる事は無い。
受付で座っていると気が立った任務帰りの上忍に理不尽な言い掛かりを付けられる事も少なくないので、君子危うきに近寄らずを身に染みて分かっているからだ。
遠くから眺めているだけで良い。
仲間内だけでこっそり盛り上がるのが良い。
そんな慎ましい内勤中忍達は、今日も横目でこっそり憧れの上忍達を眺めて悦に浸っているのだ。

「お前、本人に絶対言うなよ」
煙草を横咥えし、紫煙を吹かしているアスマは渋い顔だ。
先の九尾の凶行時に両親を亡くしたイルカを、アスマは何かと父親共々気に掛けてきた。
言わば弟分のようなものだ。
人の口に戸は立てられないし、一々言って回る訳にも行かず、イルカの耳の件については苦い思いを飲み込んだまま黙って耐え忍んできた。
せめて目の前の男にくらいは、口止めしておいても良いだろう。
そういう気持ちだった。
「流れでそういう話になるかもしれないじゃない?腫れ物を扱うようにその話題だけ避けられるのって逆に嫌じゃなーいの?耳付いてんのは事実なんだし」
「……」
「アスマも過保護ねぇ」
「過保護じゃねーよ。ただ、居た堪れねーだけだ」
ムスリと表情を硬化させたアスマを、カカシと紅は眺める。
耳が示すのは、性的な行為を経験していないという事で、その事を面白可笑しく弄られるのは、プライドがズタズタにされるという事だ。
確かに我が身に置き換えて考えると、想像だけなのに嫌な気分になった。
「イルカ先生、良い人なのに何でかしらねぇ?」
「良い人止まりだからだろ。イルカはもうちょっとこう、ガツガツ行けば良いんだ。変に遠慮っつーか慎ましいっつーか」
鼻から煙を吐き出し、アスマは何を思い出したのか眉間の皺を深く刻む。
カカシは無遠慮に受付に座るイルカの頭についた黒い耳を観察した。
時折、ピク、と細かく震える。
室内灯の下でさえ分かる、艶やかな黒い短毛に、耳の中はくすみの無いベビーピンク。

「今時女性の方が余程積極的だったりするから。そういう人とはイルカ先生縁が無かったのかしら?」
「堅物だからな。自分から好きになりゃ良いんだろうが、何処ぞで見染められて女から告られても、どうにも頷けねぇらしい」
「あらら」
里から預けられたナルト、サスケ、サクラの三人がカカシにピーチクパーチクと囀る、アカデミーのイルカ先生の良い所。
特にナルトから耳にタコが出来る程聞かされて、カカシの中には確かな興味が芽生えている。
実直で懐深く、奥手なイルカ先生。
未だ良く分かっていない子供は、イルカの頭にくっ付いたままの黒耳が大好きらしい。
隙有らば、前から後ろから抱き付いて、黒い耳に手を伸ばして手触りを楽しむ姿を、遠目に何度も見掛けた。
子供にはモテモテな黒耳も、イルカと釣り合う妙齢の人間にとっては意味も無く敬遠してしまう未経験の証となってしまう。
はっきり口には出される事の無い希望だが、やはり男が初体験となのは勘弁だと思っているのだろう。

「紅。知り合いでイルカに似合いの女とか居ないのか?」
「ちょっとアスマ。そういうお節介は諸刃の剣じゃない?イルカ先生が私に直接頼んでくるなら紹介出来る子も居るけど」
「あー……。んじゃ、それとなくイルカに水を向けてやってくれ」
「良いわよ」
面と向かって耳付きで有る事を馬鹿にされても、心無い言葉でからかわれても、イルカは声を荒立てたりしなかった。
やんわりと不愉快だと伝える事はあっても、基本的には事実だからと、黙って聞いている。
カカシが歯痒く思い始めたのは、一体何時からだったのか。
周りがこうやってあれこれ本人の預かり知らぬ所でお節介を焼こうとしているのを見て歯痒く思うのも、何時からだったか。
もういい加減、我慢も限界だった。

「ねぇ、アスマ。あの人、今付き合ってる人居るの?」
「知る限り居ねぇなぁ」
「俺、狙ってたんだよね。アプローチしてるのに、本当に鈍くてさぁ……そろそろ押し切っても良い?」
「ん?……あぁ゙?!」
ガターンと長ソファーを蹴り倒す勢いで立ち上がったアスマよりも一瞬早く、カカシはイルカの前に瞬身で移動した。
丁度受付待ちの列が途切れ、一息吐こうかというタイミングだったから、イルカはきょとりとカカシを見上げた。
火影命令で受付所にて待機しているカカシがイルカに何の用だろうかと、不思議そうだ。





続きます