ショート・シンガポールU(S.19)は、1991年のカレンダーに画かれたインペリアル航空向けのカルカッタ級(S.8)旅客飛行艇(3発、客席数12)と同様、1925年に初飛行した同社のシンガポールT(S.5)軍用飛行艇から発展した一連の、世界最大級の複葉大型飛行艇の一つである。
エンジンを背中合わせに取り付ける串型配置のナセル2組を上下の翼問に配置する4発形式は、シンガポールU(S.12)軍用飛行艇に採用され、本機へと発展した。 この形式は停泊中にエンジンを整備するのに都合が良かったし、複葉は、限られた重量で、より大きな翼面積の主翼を得るためだった。
だがショート飛行艇の特徴は、なんといってもS.1実験艇で開発したアルミニウム合金を使用したセミモノコック構造の艇体だった。 日本海軍は、これらのショート飛行艇の技術と実績に着目し、民間型のカルカッタ級にシンガポール級の軍用装備を組み合わせ、翼間に3つのナセルを並べロールスロイスH-10型V12気筒
3発装備ののS.15軍用飛行艇を開発させ、九○式2号飛行艇として採用した。
九○式2号飛行艇は、技術ライセンスを取得した川西航空機(株)(現:新明和)で国産化され、それが「飛行艇の川西」の基礎になり、その運用経験が「飛行艇王国:帝国海軍」の基盤になった。 だが「複葉大型飛行艇」の栄光の時代は長く続かなかった。 本機が完成した、同じ1934年(昭9)に、大西洋の対岸で、パンアメリカン航空向けの、より高速で長大な航続距離をもつ、革新的な設計の単葉4発飛行艇、シコルスキーS-42アメリカンクリッバー(93年版カレンダーに掲載)が進空していたからだ。 |