土曜日の朝。茨城県は常磐線土浦駅。
土浦始発の電車に乗っている乗客の数は少なかった。大きな窓から車内に射し込んでくる朝の光と、まだ多くの乗客を迎えていない車内の澄んだ空気がすがすがしい。「周囲の乗客の目(この時乗った電車は通勤用に作ってあり車内が広く見渡せる)」や「姿勢を正さないと座れない硬い座席」の効果もあり、自分も行儀よく姿勢を正して椅子に腰を下ろしている。こういうように背筋を伸ばして迎える、厳かな旅の始まりも、なかなかいいものである。
と格好をつけて書き出してみた。実際は・・・。
本当の出発駅である水戸から終点の土浦に着くまでの間、まわりりの乗客がほとんどいないのをいいことに、通勤用の電車にはないボックス座席を独り占めし、反対側の座席に足を投げ出して、「ダリー」などと言いながらダレていた。迎え酒でも飲みだしかねないくらいヤル気の感じられない旅立ちであった。もっとも、旅に「ヤル気」が必要なのか否かはまた別の問題である。この問題は改めて考えたい、なぜならもう乗換駅に着いてしまうためである。
この日は立川に行く予定(かつて八王子で働いていた頃の同僚が集まって開いたバーベキューに呼ばれた)があったため、上野行きの電車を途中で棄て、武蔵野線に乗り換えてぐるりと東京都区内を迂回した。自分はこの沿線に3年前まで住んでいたのだが、「3年一昔」とはよく言ったもので(誰も言ってません)、今までになかった高架線の工事が進んでいたり、今まで見なかったステンレスの車両が増えていたり、イロイロなものが変わっていた。
その道筋、今年の夏の「青春18きっぷ」の広告が出ていた。今回の旅行でも乗る予定である、肥薩線の山の中を走る1両きりの深紅の列車が写っている。「これからこれに乗りに行くのか・・・」しばらく感慨に耽り、感慨ついでにその写真も撮ってきた。
夜。
立川から八王子にランチキ騒ぎのステージが移り、それも引けて、夜の横浜駅から今回の旅行が本格的に始まる。午後11時に横浜到着。
これから、日付が変わって午前0時14分発の臨時快速列車「ムーンライトながら」の客となり、以降ひたすら鈍行列車のみを乗り継いで熊本まで行く。1日24時間のうち優に20時間・・・1日のうちの5/6を鈍行列車の中で過ごす、自分の人生で最もタフな汽車旅が、これから控えている。
それを半ば憂い、残りの半ばで心待ちにしつつ、駅前の喫茶店でアイスコーヒーを飲みながら出発までの時間を潰した。