「誰もボクを止められやしない、灰になる前に、キミ達もここから去ると良い」

目の前の少女は、静かに、感情を抑えるように一度だけ、述べた。


「うるせぇ! お前みたいなガキが俺たちをどうこうできるとおもってるのか! 俺たちは魔王軍だぞ!」

「だから、どうしたんだい? 
 そんなに試してみたいなら、止めないよ。授業料はその命で払うことになるけど……ね」



圧倒的な強者であるはずの自分に対して、物怖じしない少女の言葉、瞳に気圧されそうになる男達。
しかし、ここは自分たち魔王軍の支配下にある町。いままでその立場を利用し、町の人々に対し、一方的な接収を行ってきた。
それを積み重ね、身にしみついた性根が、少女一人の言葉で止められるはず無い。

「ケッ、吹きやがって、小娘が!」

少女に向かって振りかざされる剣。
その様子を、にやつきながら見ていた兵士、不安な面持ちで隠れるように見ていた町の人々……その場にいた誰もが、次の瞬間には、紅い血の滴る剣を持つ兵士と、地に伏した少女を想像した。

だが――――!


「あ、あ、あ……ば、馬鹿な……」

「だから言ったのに……、馬鹿だね」



剣は彼女を斬る前に、その柄を遺して、消失していた。
振り下ろした剣には、刃も鍔も残っていない。一瞬目を疑い、ハッと彼女を見た兵士の前には、紅の炎。
それは、目の前の少女の身体から発せられていた。


「ああ、言い忘れていたね。ボクはナギ。22番目の魔王の姫、だよ」

「あ……あの!! う、うわぁぁぁ、助けてくぇぇ」


名前を聞くや否や、兵士達は一目散に逃げ出した。まるで悪魔にでもあったかのように。
それを見送った人々の間から、歓声が沸き起こった。遂に、かの姫が現れたと。

彼女を包む超高温の炎。その紅の炎を纏う姿、どのような悪にも物怖じすることなく立ち向かう勇気。
多くの人々の間で、彼女は有名な存在であり、人々の希望でもあった。

{魔装の勇姫}

人々を助け、父にすら刃向かう、勇ましき姫として。

しかし、歓声の中、彼女をたたえるも、近付くものは一人としていなかった。
そう人々は知っているのだ。彼女に付けられたもう一つの名。
この世に生を受け、生まれ落ちたその時、母を、家族を殺した彼女の呪われた過去を。


{赦されざる焔}


彼女が、完全な救いではない、畏怖を帯びた、滅びの焔で在ることを。




(勇者屋キャラ辞典:「赦されざる焔」ナギ
文:若菜綺目羅
Cg155←BACKNEXT→Cg157

Copyright(c)2005, オリジナルイラストサイト 「勇者屋本舗」 All rights reserved.