朝の光の射し込む、清らかな空間。そこに響く、澄んだ金属音。
光の中を舞い、何度もまじわる影が二つ。
影の舞は次第に激しくなり、奏でる音もテンポを上げていく。
その奏でる音が最高潮に達した時、二つの影は動きを止めた。

「それでは、ミリア姉様、行きます!」

影の一方、黒髪の少女が深く構えに入る。両手に異形の手甲、その手に紫水晶の剣を持つ彼女は、「漆黒の麗姫」旋璃亜。

「来なさい。貴女の全てを受け止めるわ」

金髪の美女、優雅に構えるその前には、華奢な身体に不釣り合いな全長5m程ある漆黒の大鎌。それを触れずして自在に操る、「鉄の賢姫」ミリア。
純白のドレスに身を包み、漆黒の鎌を操るその姿は不釣り合いで在りながら、艶やかさを醸し出している。


ここはヘルムニプルのミリア姫の宮殿。
大切なモノを目の前にして守れなかった無力さに打ちのめされた旋璃亜は、ヘルムニプルに戻り、「空の竜玉」を手にするべく、日々奮闘していた。
そして、ミリアの時間の空いた時、こうして手合わせをし、腕を磨いていた。


「はぁぁぁぁぁ!!」

旋璃亜の鋭い剣撃がミリアを襲う。
しかし、ミリアは少し身を退いただけで、それをかわし、生じた隙を的確に大鎌が薙ぐ。風を切り裂き迫る巨大な白刃を、すんでの所で漆黒の手甲が弾いた。
激しい金属音と、紅の火花が二人の視界に舞う。
一瞬交わされた視線。旋璃亜は鎌を受け止めた反動を利用して飛び退り、体勢を立て直した。
一進一退の攻防。互角に見える戦いだったが、時間がたつにつれ、明らかに見て取れるほど、旋璃亜の方が疲労していく。
無駄な動きのないミリアに対し、無理な体勢からの回避、攻撃への転身を繰り返す旋璃亜。
二人の実力差は見て明らかだった。

明白になってしまう力の差。勇者などと言われ、慢心していた自分がちっぽけに感じられる。そして、大切な人を守れなかったあの時の光景が、脳裏によぎる……。

このまま負ける訳にはいかない。

剣を鞘に収め、ミリアを見据え、深く呼吸する旋璃亜。そして、ゆっくりと手のひらに魔力を集中する。

「双刻 魔爪砕っ」


両手に魔力を溜め、相手の懐に飛び込み、直接叩き込むことで絶大な攻撃力を持つ、旋璃亜の必殺技。
まさに今の旋璃亜の全力を込めたその一撃を、

「まだまだ甘いですよ、旋璃亜」

一瞬クスリと、優しく微笑み、呟くような、しかし凛とした一言を発し、まっすぐに突進する旋璃亜を横に半歩だけ動いて避け、その背に向かって、大鎌を振り下ろした。
再び無理に体勢を整え受けようとする旋璃亜だったが、それすらもミリアの予想の範囲で、大鎌はそのまま空をくるりと半回転し、石突きが、

ゴチッ

鈍い音と共に彼女の後頭部をしたたかに打ち付けた。脳を揺さぶられ、たまらず為す術もなくその場に伏す。

「旋璃亜、貴女はその心の様にまっすぐな攻撃が多すぎます。時には退き、時には隙を見せ、相手に次の手を読ませないような戦い方を覚えなさい」

起きあがれず、悔し涙を浮かべる旋璃亜。

「貴女はまだ、多くを学ぶことが出来ます。それを吸収し、力に変える事も。
 焦る気持ちもわかりますが、学んだものをしっかりと受け止めて、貴女のものになさい」

凛とした声で、諭すように語るミリアだったが、最後にゆっくりと小さく、「龍刹の事もちゃんと受け止めなさい」と付け加えた。
それまでの彼女の言葉にはなかった、とても優しい声だった。

「今日はここまでにしましょう。それでは、私はこれで失礼しますね」

涙を飲み込み、泣くことを堪える旋璃亜を察し、彼女が立ち上がるのを待たずして、ミリアはその場を後にした。



(勇者屋キャラ辞典:「鉄の賢姫」ミリア
文:若菜綺目羅
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