物語は言葉によって語られます。人にとって言葉とはどのようなものでしょうか。人類の進化と言葉について最近、さまざまな学問が新しい見解を出しています。興味深い話を二三を紹介しましょう。人と言葉について考えるヒントがここにあります。
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チンバンジーは両眼が前に向いて付き、両眼で風景を見ています。また、前足の親指が他の指と向かい合うように付いています。
これはヒトと共通する特徴で、かつてヒトが樹の上で生活していたころのなごりだと考えられています。樹から樹へ飛び移るためにピントの合う眼と強い握力を必要としたのです。
約700万年前ヒトはチンパンジーとは異なった進化の道を選びました。樹からおりて二本の足で歩き始めたのです。
そして現在もヒトは生後一年のころより二本の足で歩き、言葉を話すようになります。二本の足で歩くことと言葉を話すこととはどんな関係にあるのでしょうか。
哺乳類にとって立って歩くことは不自然なことです。眠るときも病のときも人は横になります。一日中立っていたら夕方には足がむくんできます。
しかし人類はいまだに立って歩くという選択を棄ててはいません。なぜなのでしょう。
「猛獣の多いアフリカの草原では遠くを見ることが必要だった。」「少ないエネルギーで広範囲を移動するため。」直立二足歩行をめぐってさまざまな議論が人類学者によってなされています。
狼に育てられたインドのカマラとアマラという姉妹は発見されたときは、二本足で歩くことはできませんでした。人間は二本足で歩くように育てられると考えた方がよさそうです。
直立二足歩行をするようになり、首の骨と骨盤が変形しました。重い頭脳と体重を支えられるようにそれぞれの骨が変形したのです。
その結果、産道が狭くなり出産がしずらくなりました。そのうえ肉食をするようになるといっそう脳が大きくなり、出産がさらに困難になっていきました。
やがて人類は胎児が十分に育つ前に出産し、未熟なまま生まれた乳児を1年間は育てるという大きな負担を引き受けるようになりました。
しかし、そのことにより母と子どものつながりが密接になり、父は家族のために食糧を獲ってくる責任を果たすようになります。
ピントの合う眼は互いの表情を読み取ることに、立ち歩くことにより自由になった手はさまざまな物を作るのに役立ちました。
こうして人類は家族という人間関係を土台にして文化の基礎をつくっていきました。
言葉と直立二足歩行とはどのような関係にあるのでしょう。
このことを考える手がかりが喉の奥にあります。鼻と口は喉の奥でひとつになり、再び気道(肺への管)と食道(胃への管)に分かれます。その分岐点が喉の奥にありますが、立った姿勢によりその位置が下にさがり、喉のなかに大きな広がりができました。
この広がりを利用して喉の筋肉を調節するとさまざまな音が出せるようになります。単調な鳴き声や叫び声だけでなく複雑な音を巧みに出すことにより言葉を話すことが可能になりました。言葉は直立二足歩行によって可能になったのです。
こうして人類は表情を読み取る両眼と家族という濃厚な人間関係と豊かなコミュニケーション能力を手に入れたのでした。