U:世の中の仕組みについて
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18: 人の立場に立って考えるこが本当にできるのですか

家族の一人が歯痛でつらそうにしているとき、その痛みを想像することはできても人の痛みそのものは体験できません。物語は共有できますが、体はひとつになれません。また、生まれ育った土地や家族の違いはものの感じ方や好みまでに影響します。

人は立場をもってこの世に生きています。この立場の違いはどのように考えたらよいのでしょう。

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正しいことをするのが正義ですか

退職したAさんが輪番で町内会の役員になりました。新しく役員になった三人の役員が初めて集まりました。Aさん以外の二人は「いい街にしよう」とたいへん意欲的です。

Aさんは例年どおりの活動でいいのではないかと消極的ですが、二人は納得しません。「地域の子どもたちのためにも、地域づくりは大切だ」とAさんを説得します。消極的なAさんを最後には批判しはじめたのでした。

実はAさんはある政党に属していて、そこで熱心に活動していましたので地域の活動に時間をとられるのではと心配していたのでした。また、他の二人も退職後やることがなくぶらぶらしていたところ、町内会の活動に生き甲斐を見出そうと考えはじめていたのでした。

立場の違いから意見の食い違いがうまれることはよくある話です。こういう問題はどう考えたらいいでしょう。


正義は数限りなくある

「正しいことなのになぜあなたは行動しないのですか。」「ゴルフに行くのをやめて、集会にいき政府に反対の意志を示しましょう。」「なぜ、あなたは難民救済の寄付をしないのですか。」「あなたのような人ばかりだから、世の中はよくならないのですよ。」社会的な活動に熱心な人の周辺ではこのような軋轢が生まれがちです。言われた人はただ申し訳なさそうに黙っています。

しかし、正しいことだからといってそれを強制する権利が人にあるわけではありません。正しいことは世の中には無数にあります。そうした方がよいと考える人は自分が納得するまでやればいいだけのことです。他の人にそれを強要するのは自分の立場を正義という物語に仕立てて強要する無神経な振る舞いだと言わざるえません。

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物語に立場の論理が隠されている

実は自分の立場を正当化して他の人に押しつけ、自分の立場をより堅固なものにしたいという企みは世の中に実に多く見られることです。

マスコミを利用したり法律で制度化したりしてさまざまな立場が物語に織り込まれ、権力に仕立てられていきます。特にそれが誰も反対できないような正義の物語として宣伝された場合、私たちは無批判にそれを受けいれ、それに動員されてしまいがちです。その典型がファシズムです。

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差別は典型的な立場の論理

自分の立場を正当化するために他の立場の人を攻撃する物語が大きな力をもってしまった場合、それは差別に発展していきます。差別の理由には合理的な根拠が見出せないのが普通です。まさにそれは物語でしかありません。

多くの差別は家族制度に依拠して拡大し続けてきました。ですから差別は典型的な立場の論理です。明らかに根拠のない理由で特定の人びとを攻撃する物語がなかなか廃絶されないのは、立場の論理がいかに堅固な性質を持っているかをよく表しています。

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優越する立場は現状にしがみつく

優越する立場にある人たちは現状が続くことを望みます。眼前の世界こそが理想で永続しなければならないとする物語には根拠がありませんから、それを正当化する根拠をつくり出さなければなりません。

それには敵対する勢力を想定すればいいわけです。「敵対者は悪。自分たちは正義。」そのような物語が差別をささえる論理として発展していきます。差別は自分たちの立場を正義とする党派的な物語からうまれます。

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立場の論理は超えられるか

「自分たちを正義とし、敵対する勢力を悪として攻撃する」党派的な物語を超えるにはどのように考えたらよいのでしょう。

優越する現状にある多数派の人びとが有利な現状にこだわることから差別の論理が育ちました。ですから現状を超えるもっとよい状況を示し、多数派も少数派も共にめざす新しい物語をつくるしかありません。物語は物語によって超えていくしかないようです。

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