13:地主にも弱点は必ずあるはず
記者:先日のお話で、何となく腑に落ちないことがありました。先日は市場生産価格は費用価格に平均利潤を加えて計算していましたが、それはすべての競争が終わったあとの話で、実際の価格は市場の競争で決まるような気がするのです。
3世:おっしゃるとおりです。私(正確にはマルクス)の話は抽象的なことから具体的なことへと進んでいきます。ですから、わかりにくいのです。しかし、首尾一貫した説明をするためにはそうするしかないのです。ご質問の点が今日のテーマです。
地代を下げる資本の底力
3世:ご質問の内容を先日の話に続けますと、市場生産価格がどのレヴェルの生産条件で生産されたもので決まるのかという問題になります。また、例で考えます。前回と同じ数値です。
(平均利潤率は20%とします。)
農地 | 投資資本 | 収穫 | 売上げ | 利潤 | 超過利潤 |
A | 50万円 | 1トン | 60万円 | 10万円 | 0円 |
B | 50万円 | 2トン | 120万円 | 70万円 | 60万円 |
C | 50万円 | 3トン | 180万円 | 130万円 | 120万円 |
D | 50万円 | 4トン | 240万円 | 190万円 | 180万円 |
追D | 50万円 | 3.5トン | 210万円 | 160万円 | 150万円 |
3世:今、仮にD地の最初の投資によって4トン、追加投資によって3.5トンを生産し、そのすべてが売り切れ、依然として市場生産価格は最劣等地Aの個別生産価格60万円/トンの水準にあったとします。その場合、D地の差額地代Uは次のようになります。
(平均利潤率は20%とします。)
追加投資によるD地の利益(1トンあたり)
( 60万円 × 3.5 − 60万円 ) ÷ 3.5 トン = 42+6/7(1トン)
追加投資によるD地の利益(3.5トンあたり)
( 42 + 6/7 ) × 3.5 トン = 150万円
210万円 − 50万円 − 10万円 = 150万円
追加投資によるD地の超過利潤 150万円 (3.5トンあたり)
市場生産価格が下がってしまった
3世:追加投資により増産されれば、供給が増えますから、その分価格はさがります。その結果、市場生産価格がB地のレヴェルでの個別市場生産価格に下がったとすると、上の計算は次のようになります。
(平均利潤率は20%とします。)
農地 | 投資資本 | 収穫 | 売上げ | 利潤 | 超過利潤 |
B | 50万円 | 2トン | 60万円 | 10万円 | 0万円 |
C | 50万円 | 3トン | 90万円 | 40万円 | 30万円 |
D | 50万円 | 4トン | 120万円 | 70万円 | 60万円 |
追D | 50万円 | 3.5トン | 105万円 | 55万円 | 45万円 |
B地の個別生産価格は投資+平均利潤で次のようになります。
( 50万円 ÷ 2トン )+(10万円 ÷ 2トン) = 30万円(1トン)
D地のB地に対する差額地代TはD地の利潤とB地の利潤の差額だから、
( 70万円 − 10万円 ) = 60万円
D地のB地に対する差額地代Uは追加投資による利潤の差だから、
( 105万円 − 60万円 ) = 45万円
3世:この計算からわかるように、追加投資により市場生産価格が下がっても、D地には差額地代Uが生じることになります。
記者:わかりやすい例ですね。
再劣等地にだって地代はあるぞ
3世:それでは、最劣等地への追加投資によって差額地代は生じるでしょうか。また、例で計算してみます。
(平均利潤率は20%とします。)
A地への投資
投資 | 投資 | 収穫 | 平均利潤率 | 超過利潤 |
1回 | 50万円 | 1トン | 20% | 0% |
2回 | 50万円 | +1.5トン | 20% | |
合計 | 100万円 | +2.5トン | 20% | (X)% |
3世:上の表の(X)がプラスになれば最劣等地Aにも追加投資によって差額地代Uが出ることになります。ではやってみますよ。
(平均利潤率は20%とします。)
市場生産価格(1トン) | 50万円+50万円×0.2 | =60万円 |
売上げ | 60万円(1トン)×2.5トン | =150万円 |
利潤 | 150−100 | =50万円 |
平均利潤 | 100万円×0.2 | =20万円 |
超過利潤 | 50万円−20万円 | =30万円 |
記者:出ました!A地でも追加投資によって差額地代Uが出ますね。
絶対地代の登場
3世:つまり、最劣等地にも投資次第で超過利潤が生じるということは、どんな土地でも投資される可能性があるということです。つまり、土地には絶対的に価値があり、土地を持っていれば地代が生じる可能性があるということです。剰余価値が平均利潤として資本家たちに配分されることに異議をとなえることが可能になります。
記者:資本家と労働者の対立に加えて地主も利害関係者になるということですね。
3世:そうです。これは階級対立です。ですから力関係で決まってきます。
記者:資本主義社会は労働者と資本家と地主の三つの階級でできているのですね。それが計算で証明できるところが、なんかすごいな。
超過利潤にもいろいろ
3世:価格は直接的には市場格としてまず現れます。需要が多くなれば価格は高騰し特定の資本に超過利潤をもたらします。しかし、資本は価値の増殖を求めてたえず競争していますから、それはやがて平均化されてしまいます。生産条件の優劣による超過利潤も市場価格をとおして平均化されてしまうのです。
記者:いかに早く超過利潤を得るかが経営者の腕の見せ所ですね。
価格の決まり方
3世:まさにそうです。これでやっと価格と価値の関係が見えるところまできました。
価格の決まり方についてここで整理しておきましょう。
- 市場での購買者と販売者が相対して、供給に対する需要の量によって市場価格がきまります。
- 販売者である資本家は市場価格から費用価格を差し引いて超過分を利潤として受けとします。このとき、利潤率(利潤÷投資額)が平均利潤を超えていたら、それが超過利潤ということになります。
(市場価格−費用価格−平均利潤=超過利潤)
- 超過利潤が得られる産業分野には他の分野から資本が流入し、最後には分野を超えて利潤の平均下が進み、超過利潤は消滅します。
記者:それでは、資本はもう増えることができませんね。資本は価値増殖をもとめる貨幣の運動体という前提がここで終わるということですか。
3世:いやいや、こんなところで私の野望は終わりませんよ。これまでは生産資本の話でした。工場経営者の世界と言ったらいいでしょうか。しかし、これからは商業資本(スーパーやコンビニ)、貨幣資本(銀行や証券会社)と私はどんどん変貌をとげていきます。