世界中にひろがっていった人類が住みついた場所のうちでどこが一番住みやすい土地だったのでしょう。そのような場所は奪い合いにならなかったのでしょうか。
アフリカは一貫して乾燥化の傾向にありました。サハラ砂漠には多様な動物群と暮らす人びとの様子を描いた岩絵が大量にみつかっています。現在のサハラ砂漠からは想像できませんが、かつてはそこには草原がひろがっていました。乾燥はアフリカを過酷な大陸にしました。
赤道直下に位置する熱帯雨林の風土病やサバンナの猛獣も人びとの生活を脅かしました。また、降水量の多い熱帯の土地は一般に豊かな土壌に恵まれず、一部の地域以外では多くの人口を支えるだけの農業文化が発展することはありませんでした。
アフリカの自然環境は食物連鎖の下位に位置する人類にとっては厳しい世界だったのです。
アフリカから海岸沿いに南アジアに移動した人びとのうち海岸や島嶼をつたって、いち早くオセアニアに移っていった人たちはやがてユーラシア大陸からきり離されて孤立した歴史をたどりました。
現在アボリジニーと呼ばれているオーストラリアの先住民は狩猟・採集の文化を維持しました。
南太平洋に長い年月をかけて移住した人びともアジア大陸から持ち込んだバナナやタロイモなどを栽培しましたが、有力な栽培植物を南太平洋の島々に見つけることはありませんでした。人口が増えればカヌーに荷物を積んで新しい島を求めて彼らは航海にのりだしていきました。
オセアニアと同じように陸橋が海に沈んで孤立したアメリカ大陸は多様な自然に恵まれていました。トウモロコシやジャガイモなど食用に適した植物もありました。しかしこれらの植物を栽培用に品種改良するには長い時間がかかりました。山岳地帯が多くまた南北に細長い大陸では自然環境の変化が大きく、さまざまな文化が互いに伝わりにくい傾向がありました。
また、鉄や馬などがなかったため大帝国が出現することもなく、各地の環境を活かした文化が孤立して育っていきました。
アメリカ大陸の歴史はゆっくり静かに流れましたが、このことが近代になって災いすることになりました。
西側を海洋に面した西ユーラシアは冬に雨が多く、夏に雨が少ない気候となりました。大西洋に面した土地や山麓地帯では降水量に恵まれ農業も可能でした。特にペルシア湾から東地中海にかけての「肥沃な三日月地帯」と呼ばれる山麓地帯では麦やエンドウなどの栽培植物がいち早く食用に改良され、農耕がはじまりました。
これらの栽培植物は収量が少なく、多くの人口を支えることができないため、羊や牛など牧畜で食糧の不足分を補ったり、交易や侵略という形で外に富を求める激しい歴史が展開されました。
西ユーラシアとは対照的に、南アジアから東アジアにかけては夏に雨が多く降るため植物が育ちやすく、多くの人口を支える稲作文化が育ちました。しかし、作物もよく育ちますがそれ以上に雑草も育ちますから、家族総出で除草作業に精を出すことになります。
こうして家族中心の人口密度の高い文化が発展しました。
草原と砂漠がひろがる中央アジアは生活には適さない世界でしたが、雪解け水を地下水道で利用するオアシス民と草原の遊牧民にとっては、外からの攻撃から身を守るには都合のいい場所でした。彼らは互いに協力しながら交易で富や情報を手に入れ、世界史では重要なはたらきをしました。
東南アジアやインドは寒冷化の時代には北から移動してくる人びとを受けいれる役割をはたしました。東南アジアでは多様な地形に棲み分かれて新しい人びとを受けいれる文化が生まれました。インドではカースト制度にみられるように社会的に住み分けて互いに分かち合う独特の文化が生まれました。
また、香木や香辛料など他の地域には見られない珍しい物産にめぐまれ、宝の国として古くから交易で栄えました。
このようにアフリカから世界にひろがっていった人びとは、それぞれの地域の特色を生かして、それぞれの地域文化をつくっていきました。地域によっては不利な条件すら活用して、それぞれの歴史を作っていきました。「住めば都」という日本のことわざからはそうした人びとの知恵と心意気が伝わってきます。世界の各地にはその地域固有の歴史の時間が流れはじめていました。