各地域、同時代並行の世界史
人類の再会物語
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13.選挙で棄権するのはいけないことか

選挙での投票率の低さがいろいろな国で問題になっています。一部の国では投票を棄権したら選挙権を停止したり、罰金を科したり、運転免許の更新を認めなかったりのペナルテイを科す政策をとっています。

投票は義務なのでしょうか。国家と国民の関係はどう考えればいいのでしょう。

市民革命は
一部の人たちがおこした

アメリカが独立するとき、植民地の人びとが全員イギリスからの独立を望んでいたわけではありません。

フランス革命でも革命に参加したのは一部の国民です。その結果国家は国民のものとなり、人びとはみんな国民になりました。

しかし、選挙権は革命を推進した一部の人たちが独占しました。納税額による差別を撤廃する戦いの末、労働者や農民が選挙権をえたのは19世紀末から20世紀のことでした。

いまでは多くの国では女性も含めて成人にはすべて参政権が認められていますが、投票率の低さに悩む国が多くあります。どうしてこのような現象がおきたのでしょう。

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市民革命は「No」からはじまった

アメリカの独立はイギリス議会が植民地に一方的に新しい税金を課したことが発端でした。

フランス革命は免税が認められてきた特権身分に対する反発が原因でした。革命のテーマは税金に関する「No」だったのです。

その結果、アメリカはイギリスから独立することになり、フランスでは王政が廃止されました。vそのときは革命後どのような政府を立ちあげ、どのような政治をするかは決まっていませんでしたから、アメリカでもフランスでも新しい国のあり方をめぐって混乱がおきました。

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新しい国のあり方をめぐって

市民革命後の国のあり方は、その国の歴史的背景や時々の国際情勢によってさまざまな模索がなされましたが、誰かが権力をとって政治は運営されました。

政府に不満のある人は立ちあがり、権力を奪いました。アメリカは南北戦争のときにもっとも深刻な権力闘争を体験しました。フランスでは何度も何度も権力をめぐる争いがおきました。

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厳しい国際状況が選挙権を拡大した

19世紀の末になると先進国どおしの競争が熾烈になり、国内での政治的対立が国の存亡につながりかねない状況が生まれました。

特に労働運動が国をこえて社会主義運動に発展する懸念もあり、先進国の為政者は選挙権を拡大して国内の政治的な緊張を緩和する道をとるようになりました。

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大衆民主主義の時代

第一次世界大戦では労働者も兵士として戦場にかり出され、労働力不足を補うため女性が職場に進出するようになりました。

こうして先進国では普通選挙が実現し、大衆民主主義の時代がはじまったのでした。

国民は選挙権をえることによって、戦争に行く義務を背負うようになります。

国民が選んだ政権が国家を守るために戦争を行うのだから、国民には戦争に行く義務があるという論理が成りたちました。手続きが正しければ、結論は正当なものとされました。

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国民が独裁者を選んだ

1920年代、先進国には大衆文化がひろがります。普通選挙が実現し、庶民にも余暇や娯楽を楽しむ経済的な余裕がうまれました。

このゆとりの日々は1929年の世界恐慌により吹き飛びます。この混乱のなかでイタリア、ドイツ、スペイン、日本と多くの国で独裁的な政権が誕生しました。

これらの政権を支えたのは選挙権をえたばかりの大衆でした。時代は確実に戦争に突き進んでいきました。

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国家を守るために犠牲にされた国民

こうして、日本やドイツなどでは多くの国民が戦争に動員されました。しかし、敗戦色が濃くなると国は戦争遂行を優先させ、一般の国民の生活や命を犠牲にするようになりました。

「国家は国民の生命や財産を守る。そのために戦争をする。勝つためには国民の犠牲はやむをえない。その結果、国民の生命や財産が犠牲になった。」

この深刻な論理的破綻を避けるには国民が政府に対していつでも「No」と言える権利を確保していなければなりません。

実は「No」言うのは国民ではなく大衆です。大衆は政府に政策を付託したのではなく、黙認しているだけなのです。

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政策は政権の物語

政府はこの政策が正しいと信じて政策を実行します。それは政権にある人たちの権利であり義務です。

主権がある国民のために有効な政策を実行ことができなくなった政府は、いつでも交替しなければなりません。

大衆にはいつでも「No」という権利があります。それは投票した者にも棄権した者にもある権利です。

なぜなら、選挙で選択が迫られるのは一部の政策であり、さまざまな判断は時々の政治情勢によって変わっていきます。特に国際情勢は一歩先は闇のなかです。

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