各地域、同時代並行の世界史
人類の再会物語
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12.労働時間はなぜ短くならないのか

すべての条件が全部そろう希有な条件で始まった資本主義がどうして世界へと広がっていくことが出来たのでしょう。

好条件のイギリスですら資本主義経済が成長するためには政治の支えや軍隊の助けが必要でした。資本主義という仕組みはなぜ世界中にひろがっていったのでしょう。

なぜ英国製品が外国で売れたのか

資本主義経済の強みはなんと言っても価格の安さです。安い商品が大量に入ってくるのを防ぐために外国は高い関税を英国製品にかけます。そのためイギリスは相手国の関税自主権を奪って、相手国が英国製品に関税をかけられないようにしました。 資本主義経済が市場原理を武器にして世界へ広がっていったと考えられていますが、市場原理は歴史をこえた究極の原理なのでしょうか。

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労働時間は政治が決める

市場原理を賃金、物価、労働時間の関係から考えてみます。この三つのうち労働時間には異なった性質があります。労働時間は市場原理ではなく政治で決められるのです。

業革命のころは12時間とか15時間という労働時間もありましたが、10時間・8時間と制限され、現在の日本では週40時間ということになっています。労働時間が政治で人為的に決められるからです。

それなら、豊かになった国では週35時間、30時間、20時間と短縮できるはずです。生産技術はそれを可能にするほど向上したはずです。どうして労働時間は減らされにくいのでしょう。

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労働時間の短縮はむつかしい

A国で生産力が向上した分だけ労働時間を減らしたとします。その分給料も減ります。物価もさがります。安いA国の製品は海外でも売れ、A国はお金持ちの国になります。

そのため外国から輸入される物の値段もさがりますから、A国の物価はさらにさがり、労働者は安い賃金でも生活できるわけです。

これが市場原理による労働時間と賃金と物価の関係の基本ですが、現実はこれと異なります。

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伝統社会と近代社会の境目で利潤が生まれる

市場原理どおりに経済が動かない理由の一つは極端に安い賃金の国があるからです。

伝統社会が壊れ始めた地域では安い労賃で働く人びとが現れます。鎖国をやめた明治のころの日本もそうでした。はじめは絹など伝統的な製品を輸出します。それは貧しい農民が生活を犠牲にしながら生産された製品でした。彼らは安い賃金でも働かざるえない立場で輸出を支えます。

しかし、やがて農民たちの生活も向上し労働時間も短縮されると、新しい投資は低賃金で働く人びとを求めて外国へと移動していきます。近代日本の例でいえばそれは朝鮮や中国でした

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脅威だったイギリスの軍事力

外国に進出するにはイギリスやアメリカがそうしたように軍事力が必要でした。新しい兵器は資本主義が世界にひろがっていくために重要な働きをしました。

クリミア戦争でイギリスの近代兵器の威力を思い知らされたロシアの皇帝は、近代化の必要性を痛感するようになりました。日本やドイツが富国強兵の名のもとに、国家の主導で近代産業を育成したのも、アメリカやイギリスの軍事力に対抗するためでした。

また、19世紀から20世紀、科学技術が飛躍的に発展したために、戦争のたびに戦争犠牲者の数は拡大し続けました。軍事力は資本主義の発展にとって不可欠な要素でした。

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強者の立場を隠す市場原理

市場原理は貨幣のための原理です。貨幣は世界共通でどこへでも流れていきます。現在では瞬時に世界中をめぐります。

一方、労働力は自由に世界を移住できません。慣れ親しんだ生活環境を棄てるには勇気が必要です。生産設備や技術にも地域的な制約があります。風土や文化や宗教の影響もあります。

もしこのような立場の違いを超えて自由競争を主張する人がいたとしたら、それはその商品の取引について有利な立場にいる人だけでしょう。そしてその有利な立場が強大な軍事力によって切り開かれたものとするならば、市場原理は強者の物語でしかありません。

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競争という物語

世界がひとつの市場としてつながり、より安い製品を求めて投資先を争う、この戦いが資本主義という経済の歴史でした。

しかし、それは「消費者は安い商品を買う」という前提の上に成り立っています。これが崩れるとき、市場原理は経済学の万能原理ではなくなります。

私たちは安いから、美味しいから、便利だから、おもしろいからという動機で商品を購入します。その結果その商品の生産地でおきる影響がいまより見えやすくなったら、商品の物語より人の物語を選択することもおきるようになるでしょう。そのときは市場原理だけでは経済現象を説明できなくなるはずです。

現在は過渡期です。過渡期には政治が大きな力をもちます。今度は政治について考えてみます。

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