牛肉を安心して食べるための狂牛病Q&A
池田 正行(国立犀潟病院医師 臨床研究部生化学室長)
主婦の友社  2001  95p.    780円(本体)
■はじめに■
さいきん近所の本屋でこの本を見つけました。私は、たまには牛肉を食べたいと思っていますが、昨今の狂牛病騒ぎ(という言い方をしておきます)で、マスコミから大量の情報が流されている割には、大事な情報を選び取ることに失敗したとみえて、正確な知識はもちあわせていませんでした。せめて、安全な箇所だけでも食べたいじゃあないですか。見ると、ほかにも狂牛病に関する新刊図書が並んでいたのですが、こちらの方がコンパクト(薄い)で安価でした。くわえて、設問の立て方が具体的で・・・。「牛乳も危険?」「モツ鍋や牛タン(舌)はもうやめたほうがいい?」「美白化粧品の安全性は?」などなど。特に、「モツ鍋や牛タン」の問いなど興味津々で本書を買いました。

■目次■
この本を手にされた皆さまへ 4
狂牛病はなぜ起きた? 13
新変異型クロイツフェルト・ヤコブ病とはどんな病気? 23
英国に学ぶこと 41
いま、国産の食肉は安全か? 51
肉・乳製品・加工食品の安全性は? 77









■内容その他のメモ■
著者は1990年から2年間、スコットランドに留学した体験をもち、もっとも手軽で安上がりな動物性タンパク源だった牛肉をたくさん食べていたそうです。その当時、英国政府は狂牛病は人間に感染しないという公式見解を出していたのですが、のちになって、人間がかかる新変異型クロイウツフェルト・ヤコブ病の原因である可能性をみとめたのです。それまで安全だとされていた食べ物が実はそうではないかもしれないと言われたわけですから、パニックが起きたことは言うまでもありません。数年前、英国で起きたことが今年日本でも起こりました。著者は、当時から一貫して、確かな日本語情報も得られずにおびえているであろう在英日本人のために、インターネットで正しい日本語情報を提供してきたのだそうです。

そのHPとは「狂牛病の正しい知識」。そのHPの前書き部分で、著者は本書を出したことに触れ、内容はHPに書いてあることと同じだからHPを読む人は買う必要は無いとまで言い切っています。な〜んだ、と思いましたが、やはり本には本の分かりやすい構成が凝らされているなどの利点だってありますよーダ(ちょっとヤケ)。

病気には、それぞれの動物固有のものがあって、猫の病気が馬にうつったり、人にうつったりしないしないといいます。これが「種の壁」と呼ばれるものです。ところが、まれに動物の「種の壁」を越えて病気がうつることがあり、狂牛病はその可能性のあるものです(ちょっと余談になりますが、本書は薄い本で読みやすいとはいえ、丁寧に読んだ方が言いと思いました。安易な断定を避けている箇所がきわめて多いのです)。狂牛病は牛のプリオン病ですが、人のプリオン病が新変異型クロイウツフェルト・ヤコブ病です。いまのところ[2001年12月26日現在]日本でこの患者さんは確認されていないようです。そして、「肉」の部分を食べている限り新変異型クロイウツフェルト・ヤコブ病にかかることはないと読んで(p.28)希望の光が見えてきました!! 反対に異常プリオンが溜まるところは、脳、脊髄、目、回腸遠位部(小腸の先端部分)だと書いてあります。また、日本ではこの10月から解体される牛の全頭検査が、ヨーロッパよりも厳しい基準で行なわれるようになったとのこと。この検査を経た後の牛ならば、アブナイ箇所も取り除かれて市場に出回るので、安全性が高まるというわけです。

今年の夏の、ことに農林水産省のこの問題に対するいいかげんな対応は、私も頭にこびりついていて、それが大きなマイナスイメージになっていましたから、はじめのうち、上のように書かれても、俄かには信じがたく思われたものでした。でも、本書で繰り返し書かれる根拠を読むうち、イメージ、今回得た正確な知識、また10月に始まった全頭検査といった新しい体制などを頭に入れなおして考えることができました。すると、イメージだけに頼って不確かな判断をしようとしている自分がそこにいて、大いに反省。マスコミから大切な情報を得てこなかった自分に対する反省もありますし、反対に「果たして本当に安全なのでしょうか?」式の物言いで自分たちは安全圏内に身をおく(責任を取らないということ)マスコミの姿勢にも、腹が立ってきたしだいです(ちょっと反応が遅いかったかな?)こうして思考の整理ができたのですから、本書は、すごく役に立ったといえます。

たとえば牛のモツについては、以前は危険部位が混じっていた可能性もあるでしょうが、異常プリオンがたまっていない牛のモツなら心配要らないというわけです(10月からの全頭検査がそれを保障してくれるということでしょうかね)。牛タンにいたっては、ただの筋肉なのだから何の心配もないと明快で、私なりの頭の整理ができたというわけです。比較的短時間で読める本ですから、食べたいけれど何となく心配という人は、一度読んでみたらいかがでしょうか?
【2001年12月26日】


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