私立大学の財政分析ができる本
野中 郁江+山口 不二夫+梅田 守彦
大月書店 2001  235p.    1800円
■はじめに■
『私立大学の財政分析ができる本』
ふだん財政分析などというものには無縁の私ですが、私立大学で働く者の端くれですし、組合の役員になって団体交渉に出る機会が回ってくる年度もあります。団体交渉のやりとりの中では、財務三表と呼ばれるものの説明を受けることもありますが、そこは門外漢の哀しさで、いま一つわからない箇所が残ったりするものでした。

先日(5月20日)、東京私大教連(東京地区私立大学教職員組合連合)主催の「私立大学の財政分析セミナー」があり、参加しました。「超」初心者というべき私にも、実に良くわかる内容で、そのとき使用したテキストが本書でした(講師は、著者の一人、野中郁江さん)。





■目次■


1 財政分析に必要な準備は? 7 時系列分析をしてみよう
1-1 どのような資料が必要か 16 7-1 貸借対照表の推移を見る 110
1-2 学校法人会計基準を知っておこう 23 7-2 消費収支計算書の推移を見る 120
コラム@ 財政分析における「植木算」 24 7-3 資金収支計算書を12年間分析する 128
コラムA 手もとに置いておくと便利な本 31 8 比率を使って分析する
2 計算書の記載項目を理解しておこう 8-1 「伸びを見る比率」と「関係を見る比率」 138
2-1 資金収支計算書の記載科目を知ろう 32 8-2 私学事業団が使っている比率 141
2-2 消費収支計算書の記載科目を知ろう 39 8-3 私立大学連盟で使っている比率 161
2-3 貸借対照表の記載科目を知ろう 45 8-4 B大学の事例で比率分析をおこなう 162
コラムB 「資金収支調整勘定」とは? 40 9 私立大学経営を会社と比べてみる
3 貸借対照表,消費収支計算書ってどんな計算書? 9-1 株式会社にならって消費収支計算書を組み替える 168
3-1 貸借対照表とは? 53 9-2 百分比貸借対照表も会社と比べてみる 172
3-2 貸借対照表と消費収支計算書の関係 56 9-3 株式会社の比率と比べてみる 173
3-3 消費収支計算書から採算を見る 59 9-4 B大学のケースを会社と比べてみる 181
4 「基本金」を学ぼう 9-5 レーダーチャートをつくろう 185
4-1 独特な基本金組み入れ制度 64 9-6 企業評価と大学はどこが違うのか 189
4-2 基本金組み入れ制度を検討する  70 10 日本の私立大学の財政はいまどのような状況か
4-3 [提言]基本金組み入れに代わる新システムを 76 10-1 1998年度までは大学法人全体としての財政はきわめて健全 190
コラムC 基本金組み入れの原資は収入超過額だけではない 74 10-2 規模が縮小している短期大学セクターの財政は? 197
コラムD 基本金組み入れ制度の問題点 75 10-3 大学間の格差はどのようになっているのか 203
5 貸借対照表と消費収支計算書を分析しよう 10-4 短期大学間の格差は? 206
5-1 貸借対照表を分析する 80 10-5 [補論]1999年度の実績をみる 208
5-2 消費収支計算書を組み替えて分析する 89   (1) 大学法人全体としては99年度も財政は健全 209
コラムE 「引当金」と「引当特定資産」 82   (2) さらに厳しさを増す短期大学の財政 215
コラムF 貸借対照表の注記からわかること 86 [付録]学校法人会計基準 220
6 資金収支計算書からキャッシュフローをみる
6-1 資金収支計算書はこんな計算書 96
6-2 資金収支計算書を3つに組み替える 101
  (1) 1つ目の区分は「消費収支関連の部」 101
  (2) 2つ目の区分は「財務的収支の部」 104
  (3) 3つ目の区分は「資金収支調整関連の部」 107

■内容 その他のメモ■

目次を掲げましたが、これだけでも本書の内容は概ね想像できるかもしれません。しかも実際の目次は、もっとうんと細かく記載されていますから、何度も引っ張り出しては調べたいときなどに、役立つことでしょう(その代わり、といってはナンですが索引を省いたそうです)。

財務三表(など)を手もとに置いたときに、私と同じ「超」初心者が不安を覚えることがらがあります。たとえば、それぞれの表に記載されている科目の意味。これは第2章にまとめられていますから、辞典のように使っちゃいましょう。財務三表のうち、貸借対照表と消費収支計算書については第3章で詳しく学べます。ただ、私立大学に特有な基本金組み入れ制度については第4章を別にたてて、その仕組みと問題点、さらには新システムの提言までしています。資金収支計算書は、これを組み替えて分析すると有効だということで第6章にまとめられています。第9章で、私立大学の財政分析を会社のそれと比較しているのも、興味深いです。

そんなムズカシイことは自分には不向きだ(あるいはできない)と思っている方がいらっしゃるとすれば、そうした先入観をひとまず捨てて、本書を手にとってみることをお薦めします。実は私自身、「向いていない」と思い込んでいるフシがありました。以前、同じ学内にこの方面に明るい人がいた時には、尊敬すると同時に、あちらは理科系で数字にも強いしな、とどこかで考えていたものです。今回、本書を使ったセミナーを受けて考えを改めたのは、まさしくこの点でした。その気になって少し勉強すれば、必ず基本的なことはわかるようになる、という確信めいたものを得て帰ってきたのですからね。私の場合、あとは本書を横に置いて、ここ数年(5〜6年ほしい)の財務三表を実際に分析してみることです。現在の大学の資産の状況に加えて、将来何をやりたいかの一端が垣間見えてくるかもしれません。早めにやってみようと思っています。
【2001年5月27日】


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