バッハの四季  ドイツ音楽歳時記
樋口 隆一
平凡社(平凡社ライブラリー) 2000  338p.
■目次■

新年
バッハの四季 p.12-25 夏至の火祭り p.156-163
ドイツの冬 p.26-33 「主よ、人の望みの喜びよ」 p.164-171
謝肉祭の熱狂 p.34-40 夏の夜のワインのひととき p.172-179
火の粉の日曜日 p.41-46 ヤコブのりんご p.180-187
冬よさらば p.47-53 「農民カンタータ」 p.188-197
マリアへのお告げ p.54-60 マリア昇天の伝説 p.198-203
「マタイ受難曲」 p.61-68
秋の月 p.206-214
兎が運ぶ復活祭の卵 p.70-77 マリアの三十日 p.215-222
旅立つ若者 p.78-85 子供たちの提灯行列 p.223-230
小鳥の結婚式 p.86-93 幸せの緑の花輪 p.231-238
魔女の饗宴、ワルプルギスの夜 p.94-101 新酒の季節 p.239-247
花の万華鏡、五月の野山 p.102-110
晩霜を降らす氷の聖者 p.111-117 初雪 p.250-257
聖霊の降りそそぐ日 p.118-124 宗教改革記念日 p.258-268
ラインの葡萄酒 p.125-130 聖者の行進 p.269-277
ドイツ人の守護者 p.131-137 音楽の守護者 p.278-287
苺摘み p.138-145 待降節の冠 p.288-296
アルプスの山開き p.146-153 茨の森のマリア p.297-303
聖夜 p.304-312


■内容 その他のメモ■

本書では、ドイツの一年を新年、春、夏、秋、冬と5つの部に分けて、四季折々の自然の移り変わりや農作物について触れ、「教会暦」の多くの祝日とそれに関連する祭りや風習とでもいうべきものが紹介されています。

たとえば3月。ドイツには鸛(こうのとり)がやって来て、野には菫が咲き始めます。4月になると、カッコウ、ナイチンゲールなどが鳴くようになります。5月には、ライラック、エニシダ、マロニエ、野にはタンポポ、れんげ草、桔梗、マーガレット、キンポウゲなどが美しいといいます。鈴蘭、梅、桜、洋梨、リンゴの花が開くのも5月。そして食べ物の旬はアスパラガス(ああ、ビールがほしくなってきました)! 3月〜4月(年によって日付が異なります)に迎える「洗足の木曜日」 という日には、ドイツ版”春の七草”スープを飲むこととか、5月には五月柱(マイバウム)を立てて、春を祝う祭りが行なわれるといったことも、本書で初めて知りました。

さて、こうしたドイツの四季の生活と密接に結びついているのが、音楽です。本書では、いきなりバッハの音楽の紹介をするのではなく、花や鳥を歌ったり、さまざまな祭りや年中行事と関係するような音楽(主にドイツ民謡)を約85曲ほど取り上げていますので、それだけでも興味深く読めました。

一方「教会暦」は、キリストの誕生を待つ待降節から始まりますが、さまざまな祝日があります。中には、カトリックだけが祝う祝日もあるのですが、プロテスタントも祝う祝日の項では、バッハの宗教作品(主にカンタータ)が紹介されます。たとえば、復活祭後第六日曜日では、使徒たちに対する迫害の予言を内容に含む「ヨハネによる福音書」第15章第26節から第16章第4節までが朗読され、その後、バッハの「彼らは汝らを追放せん」(BWV44)というカンタータが歌われます。このカンタータは、先の福音書の引用から始まり、その後どう展開していくか、といった曲全体についての解説が分りやすく書かれています。それは、ほかの祝日でも同様です。

ところで、バッハのカンタータ全体を教会暦との関係からまとめているHPを探したところ、ありました。

    「バッハ時代の教会暦(プロテスタント)」

これは、R&M合唱音楽研究所 のHPにある”宗教音楽の部屋”の一つです。すごい力作だと思います。もう一つ、テキストは英文ながら、

     List of Bach Cantatas according to the Church Year

こちらは、Bach Cantatas Recordings Review and Mailing List Archiv 中のコンテンツの一つです。先のHPとの違いを簡単に見ておきましょう。「バッハ時代の教会暦(プロテスタント)」は、移動祝日、固定祝日、備考[その祝日の意味や別称]、朗読される福音書とその箇所、朗読される使徒書簡、その祝日に歌われるバッハのカンタータ[→第何番という数字で表記]が一覧表になっています。こちらは、歌われるカンタータから偽作と判明した作品が省かれているようですが、List of Bach Cantatas according to the Church Year は偽作まで含んでいるようです。そして、こちらは福音書や使徒書簡についての情報は一切なし(分ってるモン、という意味でしょうか?)。

横道に逸れました。本書は、一度読み終えても手近に置いておきたい本ですね。たまに取り出し、いまドイツでは、どんな季節でどんな祭りがあるのだろうか、そしてどんな民謡が歌われているのだろうか、と読んでみたい気がするのです。もちろん、その時、バッハのカンタータのCDを聴きながらでもいいでしょうし、ドイツ民謡のCDを聴きながらでもいいですね。そんな楽しみが後に残る、永くつきあえそうな本でした。
【2001年3月26日】


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