第110回: 東京室内歌劇場 ブルー・アイランド版《フィガロの結婚》(シアター1010)

7月9日(日)、北千住のシアター1010で行なわれていた東京室内歌劇場の標記公演に行ってきました。まずはスタッフとキャストからご紹介していきましょう。

台本 ダ・ポンテ
作曲 W.A.モーツァルト
構成・演出・台本 青島広志
指揮 大島義彰
管弦楽 東京室内アンサンブル

配役(キャスト)
有馬 美馬(社長)・・・・・・・・・アルマヴィーヴァ・・・・・杉野正隆
有馬 露路奈(社長夫人)・・・・・ロジーナ・・・・・・・・・悦田比呂子
笛 五郎(営業部員)・・・・・・・・・フィガロ・・・・・・・・・・福山出
須佐 杏奈(新入社員)・・・・・・・スザンナ・・・・・・・・・里中トヨコ
毛 瑠美乃(中国人の社長秘書)・・ケルビーノ・・・・・神谷弘子
丸地 恵梨奈(庶務課係長)・・・・マルチェリーナ・・・・三橋千鶴
馬留頭 朗(社長夫人の叔父)・・・バルトロ・・・・・・・・女屋哲郎
馬尻 雄(合唱部顧問)・・・・・・・・バジリオ・・・・・・・・・ 森靖博
来知 雄(法律顧問)・・・・・・・・・ドン・クルツィオ・・・・・山田展弘
安渡仁 雄(植木屋)・・・・・・・・・アントニオ・・・・・・・・・和田ひでき
場留場 理菜(受付嬢)・・・・・・・バルバリナ・・・・・・・・猿山順子

いかがですか? 「なに、これ?」と思われる方も多いことでしょう。実は今回の公演はモーツァルトのオペラをそのまま忠実に上演して、演奏や演出面にどのような工夫がなされているかを発見して楽しむという種類のものではありませんでした(その点は承知のうえで見に行きました)。前口上を述べた青島広志さんは、モーツァルトは好きな作曲家だが《フィガロ》は長いから嫌いだとおっしゃり、レチタティーヴォを取っ払ってせりふに変え、時間の短縮をはかったと仰っていました。歌唱はほとんどが日本語で、中山悌一訳を定本にして一部手を加えたらしいです。ほとんどと書いたのは<恋とはどんなものかしら>、伯爵夫人いや今回の上演では社長夫人が第3幕で歌うアリアなどは原語で披露されました。さらに、結婚式の場では<踊りあかそう><お菓子と娘>などが挿入される独自のアイディアが凝らされていました

そればかりではありません。時とところを現代の東京に移し、江戸時代から200年以上商いを営む老舗の和菓子屋を舞台にしました。この種の変更は演出上の読み替えをするためにときどき起こることでしょうが、ブルー・アイランド版ではさらに、登場人物が日本人(一人、中国人)という設定になっていました。ですから、主人公はフィガロではなく笛五郎(姓は笛、名は五郎)です。また、こうした変更に呼応して、原作で使われる小道具の紙とペン、ピン、扇(重要な役割を負います・・・)は、日本の和紙と筆、高級な爪楊枝、扇子が使われ、日本橋界隈にある老舗が4店スポンサーになっていました。

堅実なテンポで奏でられた序曲に続いて、第1幕では笛五郎と須佐杏奈を中心に和菓子屋の人間模様が紹介されていきました。社長の須佐杏奈に対する下心や丸地恵梨奈の笛五郎に対する執着など、たとえ設定は変わっても、面白さと怪しげな様子は充分に伝わってきました。2幕に入って社長夫人の孤独や毛瑠美乃のどたばたなど、舞台はますます興が乗っていったように感じられました。第3幕では笛五郎と丸地恵梨奈の2人が親子だったことが判明し、とこう書くと実に事務的で味気なくなりますが、こうしたところのくすぐりも面白く、全体を通じて心底笑わせてもらいました(私だけではないのですよ、念のため)。思い切って設定を変えたブルー・アイランド版は、また見たいと思わせるできで、そういう意味では大成功だったと思います。

あえて「?」を呈するとしたら、時間の長さは確かに短縮されているのですが、それでも3時間かかりました。まだ、長くないでしょうか。しかし、あまり時間の短縮にばかり気をとられると、ギャグがおろそかになり(?)、面白さが殺がれる危険もあるので難しいところですが、欲をいうならこの点だろうと考えています。
【2006年7月13日】


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