第111回: すばらしき沖縄コンサート(自由学園・明日館講堂)

9月も終わろうとする頃、1通のEメールをいただきました。そこには、たまたまネット・サーフィンしていたら拙HPに行き当たったこと、10月8日に金井喜久子生誕100年を記念するコンサートがあることが記されていました。あわせて、今年生誕101年を迎える沖縄の詩人矢野克子をも記念して、「金井喜久子・矢野克子 音・詞の世界」というコンサートのサブタイトルがついていました。どういう催しになるのかという興味も手伝って行ってきました。まずは、当日のプログラムからご紹介。

第1部 (高良仁美 ピアノ)
1)金井喜久子:バレエ音楽《龍神祭り》序曲
2)金井喜久子:琉球狂詩曲
3)金井喜久子:ブラジル・ラプソデ
第2部 
矢野克子の詩の朗読(佐渡山豊、田中眞紀子)
《山ももの歌》(矢野克子作詞 金井喜久子作曲) 佐渡山豊(歌、ギター)、田中眞紀子(ピアノ)
《飛ぼうよ二人で》((矢野克子作詞 金井喜久子作曲) 佐渡山豊(歌、ギター)、田中眞紀子(歌、ピアノ)
《ひめゆりの塔》((矢野克子作詞 金井喜久子作曲) 佐渡山豊(ギター)、田中眞紀子(歌、ピアノ)
金井喜久子:琉球カチャーシー 高良仁美(ピアノ)


myonichikan_kodo.jpgこの日のコンサートは、金井喜久子生誕100年を記念した催しだったというだけでは説明不足というべき内容でした。第1部はプログラムを見ていただいて分かるとおり、金井のピアノ曲から3曲を選んで高良仁美さんが演奏されました。今年、キング・レコードから「琉球カチャーシー〜金井喜久子ピアノ曲全集」というCDが出ましたが、その演奏を受けもった沖縄出身のピアニストです。家でCDを聴くときは、どうしても音量を「適度に」などと考えてしまいますし、何かをしながら聞き流すBGMになりがち。これらの作品にはダイナミックさが要求されるところがあるので、実演を聴いておおいに堪能してきました。

第2部は、今年生誕101年を迎えた沖縄出身の詩人の作品を朗読することを軸に、金井とのコラボレーションで生まれた3曲が朗読の間に挿入されました。くわえて、朗読をされたお二人がミュージシャンですから、ゆりと桜にちなんだそれぞれの詞に作曲をして、2曲を披露してくれました。そしてさいごに再び高良さんが登場し、《琉球カチャーシー》を演奏したのでした。

こうした構成からも想像できるかもしれませんが、コンサートとして考えた場合は、かなり変則的なものといえます。紹介された矢野の作品は、沖縄の人々の人情味あふれる日常を描いたもの、母と兄・徳田球一にささげたもの、ひめゆりの塔を扱ったもの、《飛ぼうよ二人で》といった明るく軽やかなものなど多岐にわたっていました。このようにして、金井喜久子が生きた同時代の詩人の作品を重ね合わせることによって、戦中戦後の沖縄について二人が寄せいていた共通の想いが伝わってくるように思えました。

くわえて会場には、画家大嶺政敏の絵画が展示されていました。デイゴの花を描いたもの、1942年に描かれた沖縄婦人の姿、戦後描かれた口のない子どもの絵などなどがあり、ご子息によるお話の時間が15分ほどありましたが、戦後沖縄が日本に復帰したのは1972年のこと。35年ちかく経ちましたが、それにしても私自身は日常生活の中で、その記憶が薄らいでいることに気付かされて、少し反省。ともあれ、音楽、詩、絵画という三者を重ね合わせながら、沖縄出身の皆さんの想いをつづったこの催しは、ユニークなものでした。
【2006年10月15日】


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