第105回:レニングラード国立歌劇場《ファウスト》公演(武蔵野市民文化会館大ホール)

去る12月16日(金)、グノーの《ファウスト》の公演が標記の会場で行われました。グノーの作品って、私はほとんど実演に接したことがありません。例の《アヴェ・マリア》は放送や録音で接したものでしたし、かろうじて管楽器のための《小交響曲》くらいでしょうか。もちろん《ファウスト》は有名な作品ですし、今回の上演を知ったときには一度全体を通して見ておこうという気持ちになったわけです。

まずは、キャストとスタッフからご紹介。

指揮:アンドレイ・アニハーノフ
芸術監督・演出:スタニスラフ・ガウダシンスキー

ファウスト:ワシリー・スピチコ
メフィストフェレス:アレクサンドル・マトヴェーノフ
マルグリート:エレーナ・ポリセーヴィッチ
ヴァランタン:ドミトリー・ネラソフ
シーベル:エカテリーナ・エゴーロワ

レニングラード国立歌劇場管絃楽団・合唱団・バレエ団


毎年、年末になると来日して《第九》を演奏したり、オペラやバレエの演目を上演している団体がありますが、今回の上演は、その歌劇場によるものでした。

ゲーテの『ファウスト』第一部をコンパクトにまとめて、5幕仕立てにしたのがグノーの《ファウスト》ですが、今回の上演では、第1幕から第3幕までを一つの幕に、第4幕と第5幕をもう一つの幕にし、全2幕として上演していました。前半はファウストが悪魔メフィストフェレスと契約を結び、マルガリートと恋に落ちるまで。後半は、その1年後。ファウストに捨てられたマルガリートの悲話とファウスト、メフィストフェレスが大天使によって倒されるエンディングまでとなります。2幕仕立てにするのは、休憩が1回で済み、ストーリーの展開もわかりやすい利点があるようです。

舞台の奥の方には鏡が斜めに設置され、それがずいぶん活用されていました。舞台上の人数が多くいるような錯覚に陥りましたが、ときおり違った角度から場面が見えていることに面白みを感じることができました。また、舞台奥中央の高所から舞台前方までスロープが降りてくるようにしつらえられていましたが、これもこの公演における第1幕のさいごの箇所や、第2幕の終わりの箇所などで有効に使われていました。

それにしても、第2幕の後半で悪魔が集まるハルツ山のワルプルギスの夜の場面が出てきますが、グノーはここにバレエを挿入してグランドオペラに仕上げたのですが、ここがまたどこかで聴きなじんだ音楽がふんだんに登場し、悪魔のあつまりという嫌みを感じさせないような音楽が進行していきます。ストーリーが展開してきた中で、ファウストは後悔している部分があるのですが、第2幕で表されていたファウストの心理が、ここですっ飛んでしまい、中途半端な印象をもたせてしまうように思います。

歌手陣はよく健闘していましたし、登場する場面も多かった合唱も楽しんで聴くことができました。オーケストラは、ときにアインザッツが不揃いになったり、ソロで演奏するときに少し不安定にきこえることもありましたが、全体としては良かったと思います。私の座席(1階左側の後方)からは意外に弦楽器の低音部がしっかりときこえ、オケの響きにバランスの良さを感じることができました。また、指揮者は決してオケを力んで鳴らさず、弦楽器と管楽器のバランスを整えながらドライブしていたようでした。

一度は見ておきたいオペラでしたが、満足して会場をあとにすることができました。
【2005年12月23日】


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