第100回:コー・ガブリエル・カメダ ヴァイオリンリサイタル(IMAホール)

9月23日、数年ぶりにこのヴァ入りニストのリサイタルを聴きました。今年のジャパン・ツアーは「2005−2006年 日本におけるドイツ年」の公認行事のひとつに認定されているそうで、休憩前の第一部がドイツもので占められているのもそれが理由かなと想像しました。そのプログラムは次のようなものでした。

モーツァルト  ヴァイオリン・ソナタ第28番 ホ短調 K.304
バッハ      シャコンヌ(無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番ニ短調BWV.1004より)
ベートーヴェン ロマンス第1番 ト長調 作品40
ブラームス    スケルツォ(F.A.E.ソナタより)
ガーシュウィン ラプソディ・イン・ブルー(G.ストーン編曲)
グルーエンバーグ 4つのシルエット
チャイコフスキー  ワルツ・スケルツォ ハ長調
ラヴェル     ツィガーヌ


くわえてアンコールとして、

ピアソラ    アディオス・ノニーノ
ドビュッシー  美しい夕暮れ(ハイフェッツ編曲)
ピアソラ    オブリヴィオン


演奏:コー・ガブリエル・カメダ(Vn)、ザーネ・ストラディーナ(Pf)

前半のブラームスは《スケルツォ 変ホ短調 作品4》とアナウンスされ、当日配布されたプログラムでも「本来はピアノ曲で」「ヴァイオリン用の編曲はハイフェッツが」行ったと書かれていますが、実際に演奏されたのは別のスケルツォで、A.ディートリヒ、R.シューマンとの合作《F.A.E.ソナタ》の第3楽章として作曲されたものでした。これは、もとからヴァイオリンとピアノのための作品。

私にとって今回の一番の収穫は、さいしょに演奏されたモーツァルトのソナタでした。私がモーツァルトに接する機会が少ないために、このとても有名なソナタの実演に接したのも(たぶん)初めて。第1楽章の緊張感、第2楽章のテンポ・ディ・メヌエットのしみじみとした味わいなど、あらためていい作品だと実感しました。バッハからブラームスまでの3曲は、ああ久しぶりに実演に接したなという悦びを感じながら聴けました。

後半に入ってからの2曲は、ちょっと複雑な想いで聴きました。ガーシュウィンの《ラプソディ・イン・ブルー》の編曲は、おいしいところを拾ってぎゅっと短くした作品を想像していたら20分以上の演奏時間を要したように思います。つまり、全曲かほぼ全曲をヴァイオリンとピアノのために編曲したことになるのでしょうね。楽しんで聴けたかというと、ちょっと退屈しました。コー・ガブリエル・カメダは珍しい作品を見つけてきてコンサートで取りあげることがあり、今回はグルーエンバーグの作品もそれに当たりました。しかし、ガーシュウィンで退屈した直後だったものですから、なにかこの作品の魅力を捉えきれないうちに演奏が終わってしまった感じで残念した。もし将来《4つのシルエット》を聴くチャンスがあるようなら(CDなどでも可)、その時は逃さず聴いてみたいです。全体的にスマートな演奏をするコー・ガブリエル・カメダですが、チャイコフスキーの《ワルツ・スケルツォ》ではスラブ色を前面に押し出した弾きっぷりで、その演奏に惹きつけられていきましたし、ラヴェルも得意にしているのだろうなと思わせる堂に入った演奏。

アンコールは3曲のうち2曲がピアソラ。この日のリサイタルは、祝日でマチネーでしたから、アンコール2曲目のドビュッシー《美しい夕暮れ》が演奏され終わったときに、これで終わって会場から表へ出れば夕暮れ時を迎えている、リサイタルの印象を胸におさめて家路につくよう演出されたアンコールの選曲かと思ったほどでした。でも、もう1曲ピアソラが出てきたのですから、このヴァイオリニストはよほどピアソラが好みなのかもしれません。《オブリヴィオン》は旋律を声高にならぬよう、しっとりと歌い上げていました。

どちらかというと珍しいプログラム編成のコンサートに行くことの多い私ですが、そうなればなるほど、今回のような名曲プログラムを気になる演奏家で聴く機会を大切にしていきたいものだと考えながら帰ってきました。
【2005年10月3日】


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