第96回:ヘレヴェッヘの「第9」(すみだトリフォニーホール)

少し前の話になりますが、6月12日(日)の午後、錦糸町にでかけ標記のコンサートを聴いてきました。6月の上旬に、ヘレヴェッヘがベートーヴェンの交響曲全曲(プラス数曲)をひっさげて、連続演奏会を行うために来日したのです。行きたくとも全部は無理なので、私が選んだのは最終日の「第九」というわけです。まず、当日の演奏者からご紹介しておきましょう。

フィリップ・ヘレヴェッヘ(指揮)
ロイヤル・フランダース・フィルハーモニー管絃楽団
アンナ・コロンディ(ソプラノ)
マリアンナ=ベアーテ・キールラント(アルト)
アンドレアス・ヴェラー(テノール)
トーマス・バウアー(バス)
栗友会合唱団(合唱)

実はヘレヴェッヘは、1998年パリ・にシャンゼリゼ管絃楽団という古楽オケを率いて来日し《第九》を演奏しているのですが、たまたま私はそれを聴きました。北とぴあが会場でしたが、少なくとも私には弦楽器の音量が小さい不満が残ったこと、ホルンがナチュラル仕様だったと記憶するのですが正確なピッチをとって演奏するのに苦労している箇所があったことなど、おぼろげながら記憶していました(その後聴いた両者による《第九》のCDでは、特に問題は感じられませんでした)。

そんなこともあって、このコンサート行くかどうかは迷ったのです。しかし『ぶらあぼ』6月号に載ったヘレヴェッヘのインタビューを読んで俄然聴いてみたくなったというのが正直なところでした。その記事によると、まず今回来るのはモダン楽器のオケでピリオド楽器のオケによって行われてきたリサーチの成果を踏まえた演奏が聴けるであろうこと、次に250回は演奏したバッハの《マタイ受難曲》とは異なりベートーヴェンの交響曲は20回くらいしか演奏したことがないので探求の過程にあること、もう一つ、ほとんどの作品はべーレンライター版を使用するけれど、テンポについては楽譜にある指示を絶対的とまでは受け止めないことなどが読み取れたのです。

で、当日です。オケの編成はやや小ぶりでした。モダン楽器のオケとはいえ、トランペットだけはナチュラル仕様の楽器を持ってきていたようです。というわけで、弦楽器と管楽器・打楽器の音のバランスが、大編成のモダンオケほど分厚くならず、それぞれがよいバランスで主張し合っているかのようにきこえてきました。以前、古楽オケで感じたような弦楽器の音量が小さいという不満も感じませんでしたし、ホルンもごく普通にほかの楽器たちと溶け合っていました。ふだん私たちが聴きに行くコンサートホールで演奏するのであれば、モダンオケに古楽オケによる研究成果を盛り込む方式は、たいへんでしょうが、聴き手にとってはとてもありがたいものだと思います。

さてコーラスと独唱が入る第4楽章は、べーレンライター版を使うのであれば、全体的にもっと速いテンポを設定する指揮者もいると思いましたが、ヘレヴェッヘは、早い箇所は早いけれど、聴かせどころはテンポを早くしすぎずに言葉がハッキリわかるように聴かせてくれました(たとえば、クライマックスに近づくあたりの処理などを例にひいておきましょう)。このやり方など見ていると、大きくは、前回古楽オケと演奏したスタイルが踏襲されているのかなとも思いましたが、なにぶん前回の記憶がかなり風化しているので、あまり断定的には言えませんね。

この日の演奏はとても有意義だったと思いますし、指揮者もオケも頑張っていたと思うのですが、演奏回数を重ねるごとにまだまだ上手になっていくでしょうし、解釈に変更が加わる余地もあるのかもしれません。両者の今後に注目していきたいと思いました。
【2005年6月19日】


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