第89回:二期会「イェヌーファ」公演(東京文化会館大ホール)

二期会がヤナーチェクのオペラ《イェヌーファ》を取り上げました。以前、プラハ国民劇場の公演によってこのオペラの醍醐味に触れた私は、再びこの内容の濃い作品を観られることが嬉しく、去る12月4日(土)に足を運びました。今回の公演は、すべてのオペラをドイツ語で歌うというベルリン・コミッシェ・オーパーとの共同製作でしたが、歌唱はチェコ語ではなくドイツ語(それも新しい訳)で歌われたのですね。さて、当日の主なキャストとスタッフは、

演出:ヴィリー・デッカー
指揮:阪哲朗
合唱:二期会合唱団,二期会オペラ研修所オペラ・ストゥーディオ第49期本科研修生
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
イェヌーファ    田中美佐子
コステルニチカ  黒木真弓
ラツァ・クレメニュ 青柳素晴
シュテヴァ・プリヤ 加茂下稔


時は19世紀末、ところはモラヴィアの寒村です。主人公イェヌーファは婚約者シュテヴァの子を宿していますが、肝腎のシュテヴァは飲んだくれで遊び人。シュテヴァには異父弟にあたるラツァがいますが、冷遇され、しかもイェヌーファを愛しているのですが、屈折した表現しかできないでいます。いろいろな状況が述べられていく幕ですが、ひやっとした場面もありました。冒頭、オーケストラの弦楽セクションと他のセクションの拍がずれてどうなることかと思いましたが、ほどなく揃ってきて一安心。1幕ではシュテヴァが酔っぱらって遊び人であることを示したり、イェヌーファとのラブラブぶりがわかりやすく演出され、それだけにイェヌーファの今後が少し気がかりになる効果を生んでいたように思います。

2幕では1幕よりも5ヵ月ほど時間が経過しイェヌーファが子どもを産んだばかりです。未婚の母になるのは、どうあっても許されない状況ということで、主人公が気分が悪いと薬を飲んで眠っているあいだに、コステルニチカはまずシュテヴァにイェヌーファと結婚するよう頼みます。しかし、シュテヴァはこの申し出を断り、すでに自分は村長の娘と婚約していると告げて帰ってしまいます。次にラツァにイェヌーファとの結婚を頼むのですが、シュテヴァとのあいだの子どもが生まれたことを知ってショックを受けるラツァを見て、とっさにその子はもう死んでしまったと嘘をついてしまうのです。そしてついに、コステルニチカはシュテヴァの将来を考え、子どもを捨てに行ったのでした。コステルニチカを歌った黒木真弓さんは堂々として、声も1幕よりも伸びてきこえてきました。この幕はコステルニチカの苦悩が痛いほど伝わってきて、こちらもはらはらどきどきしました。

3幕はコステルニチカの罪が露見し、真相がすべて明らかになります。村長の娘などは怒ってシュテヴァとの婚約破棄を申し渡します(平手打ちのおまけも)。イェヌーファとラツァは、これまでの確執を乗り越え、これから二人で生きていくことを決意します。そして、舞台後方が広がり、2人が未来に向かって歩み始めたところで幕。印象が強烈に残る、感動的な幕切れとなりました。

とても充実した舞台でしたので、いずれ再演してほしいものです。その節ははチェコ語でやってよね、と希望しておきましょう。
(2004年12月10日)


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