第88回:北方の鼓動第5回レクチャー・コンサート(釧路市民文化会館小ホール)

11月5日(金)、釧路で行われた標記のコンサートに行ってきました(!)。これまで拙HPでも「北方の鼓動」の存在や、そのサポーター・システムについて触れたことがありましたが、今年はレクチャー・コンサートも回を重ねて5回目を迎えました。で、ついに生の演奏を聴きに出かけていったのでした。

第5回の内容は「日本の抒情歌・合唱の調べ・マリンバ・フルートの響き」という特集になっていて、具体的なプログラムは次のとおりでした。
こすもす 詞/与謝野晶子 作曲/平尾貴四男
山の朝 詞/武田雪夫 作曲/平尾貴四男
さくら貝の歌 詞/土屋花情 作曲/八州秀章
曼珠沙華 詞/北原白秋 作曲/山田耕筰
ペチカ 詞/北原白秋 作曲/山田耕筰
●菊池江(ソプラノ) 笠原茂子(ピアノ)
秋の月 詞/瀧廉太郎 作曲/瀧廉太郎
ふるさとの 詞/三木露風 作曲/斎藤佳三
砂山 詞/北原白秋 作曲/中山晋平
椰子の実 詞/島崎藤村 作曲/大中寅二
●石田久大(バリトン) 笠原茂子(ピアノ)
竹林 作曲/安部圭子
●野田美佳(マリンバ)
マリンバとピアノの為のわらべうた春秋 作曲/千秋次郎
●野田美佳(マリンバ) 波塚三恵子(ピアノ)
レクチャー:西村雄一郎<長崎街道考>
舞踊劇《花菱譚》想星湖より ピアノとフリュートによる舞踊曲「バラード」 作曲/早坂文雄
●赤部里美(フルート) 波塚三恵子(ピアノ)
父なる我は 詞/明石海人 作曲/平尾貴四男
麦笛 詞/藪田義雄 作曲/平尾貴四男
栗問答 詞/梅木三郎 作曲/平尾貴四男
●石田久大(バリトン) 波塚三恵子(ピアノ)
独唱、混声合唱、フルート、ピアノのための組曲「長崎街道」 詞/辻井喬 作曲/團伊玖麿
●赤部里美(フルート) 波塚三恵子(ピアノ) 菊池江(ソプラノ) 釧路合唱協会(混声合唱) 西村雄一郎(朗読/友情出演) 高坂良修(合唱指導/指揮) 

プログラム全体を見渡すと、かなりの多彩さが認められます。よく知られた歌曲のなかに珍しい歌曲が含まれたり、釧路では初めてかもしれないというマリンバの演奏があったり、合唱を含む作品を初めて取り上げたりしていました。そして毎年取り上げている早坂文雄作品は、終戦の年の秋に作曲されて日本舞踊とともに初演されたものが、(今回踊りはつきませんが)その時以来の蘇演です。

個人的な感想を先に言うと、私はマリンバの深みのある響きを久しぶりに聴きましたが、ことにソロの《竹林》には惹かれました。もしもタイトルからこぢんまりしたイメージを思い浮かべるとすると、それはちょっと違って、けっこうダイナミックに聴ける作品でした。次に面白いと思ったのは、中国風のゆったりしたメロディが多く聴かれた早坂文雄の《バラード》です。

後半に歌われた平尾貴四男の《父なる我は》は1940年作曲とあります。作詞者の明石海人は当時ハンセン病にかかり、その胸の内を詩に書いたのでした。それを平尾貴四男が作曲したわけですが、この時代にこうした作品が残されていたということに私は驚きました。この日のさいごを飾った團伊玖麿の《長崎街道》も珍しい作品のようでした。独唱とピアノが素晴らしく、全体をリードしているようにお見受けしました。惜しむらくは全体が10曲からなる組曲の終曲が、会場の時間的制約の都合から省略されたことでした。また混声合唱15人のうち、男声が4人というのも残念ではありました。

レクチャーは映画評論家・西村雄一郎さん。西村さんは黒澤明や早坂文雄に造詣が深い方なので、毎年少しずつ早坂のシリアスな音楽を紹介しつづけている「北方の鼓動」にはぴったりの講師でした。意外と思える話からはじまり、本題に自然に結びついていくレクチャーはみごとで、興味深く聞くことができました。

それにしても「北方の鼓動」は、よく知られた曲ばかり並べるならばともかく、よくも珍しい作品をみつけて取り上げるものだと脱帽です。しかも1、2回で息切れすることなく5回続けてこられたというのは、たいへんなご努力だと推察します。しかも来年3月13日(日)には、オーケストラ・ニッポニカを釧路に招いて早坂文雄の《ピアノ協奏曲第1番》を含むコンサートを開催されますし、来年10月には「早坂文雄没後50年記念コンサート」と題して二夜連続のコンサートを開きます。15日 8日(土)が「早坂文雄作品より(仮題)」、翌16日 9日(日)が「早坂の音楽思想を継承した作曲家達(仮題)」という内容だそうです。釧路からの音楽情報の発信をこれからも楽しみに見守っていきたいと思います。
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来年10月のコンサートについては日程の変更が再度ありました。下記のお知らせをお読みください。

【2004年11月10日】


<再度、日程変更のお知らせ>2005年10月の第6回レクチャーコンサートは当初予定されていた2日連続のコンサートではなく、10月9日(日)午後の1回となりました。プログラムについても当初予定とは少々異なるようです。詳細については「北方の鼓動」公式ホームページhttp://www5.plala.or.jp/forests/ )に掲載されていますので、ご覧ください。
(2005年8月28日)



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