第82回:brass ensemble BLOW 1st Live (東京文化会館小ホール)

拙HPでリンクを貼らせていただいているホルン奏者・藤田乙比古さんの呼びかけによって、新しいブラス・アンサンブルができました。その名は「BLOW」です。メンバーは砂川隆文、水谷真季(Trp)、井上康一(Trb)、藤田乙比古(Hrn)、奥山隆司(Tuba)の皆さん。その記念すべき第1回のライヴが6月6日(日)の夜にあり、聴きに行きました。そうなんです、「定期演奏会」とか「コンサート」と銘うたずに、「Live」というあたりも新しいセンスを感じます。実は、この2、3日前に藤田さんから、たまにはブラス・アンサンブルなどもいいですよと誘っていただき、聴きたいという欲求が自然に、そしてかなり強く湧いてきて、楽しみにして出かけたのでした。

この日のプログラムは、

 ウィリアム・ボイス(1710-1779)・・・シンフォニア
 トマソ・アルビノーニ(1671-1750)・・・組曲
 ドメニコ・スカルラッティ(1685-1757)・・・ソナタ(K.394、K.230、K.388)
 アントニオ・ヴィヴァルディ(1678-1741)・・・《四季》より<春>
 マルコルム・フォルシス(1936-)・・・ゴルヤーズグラウンド
 ウェルナー・ピルシュナー(1940-2001)・・・ハンマーをポケットに入れてる男

前半はイタリア・バロック中心のプログラムですが、冒頭を飾ったのはイギリスの作曲家ボイスの《シンフォニア》でした。格調の高い作品で、それをメンバーが伸び伸びとそして堂々と演奏してスタートしたのですから、言うことはありません。このグループの名刺代わりの演奏といって差し支えないでしょう。

さて、私がこの日一番興味深く聴いたのは、プログラムの前半のさいごに置かれたヴィヴァルディの《春》でした。そう、あの《四季》のなかの1曲です。2本のトランペットが伸びやかに旋律を歌い上げて、それをほかの3人が支え、全体を通していえば気分良く聴ける演奏に仕上がっていました。ただ第2楽章だけは、はじめのうち少し抵抗がありました。というのは、テューバがすごく大きな音できこえて、ほかのメンバーはミュートをつけて弱奏でしたからね。とはいえ、テューバがチェロとコントラバスの役をしているとすれば、オリジナルもそうだったかなと思い直したりして(正しいかどうか、確かめてません・・・汗)、もしそうだとすると、そこは弦楽器主体のアンサンブルとブラス・アンサンブルの違いを意識的に演奏に反映させていたのかもしれないのです。CDでは《四季》の全曲をブラス・クインテットで演奏したものがあるようで、いつか、そうした実演に立ち会えたら楽しいかもしれません。

後半は現代の作曲家の作品を2曲。フォルシスの作品は、カナディアン・ブラスのために20年ほど前に書かれたものですが、ルネッサンス時代のグラウンドという舞曲を用いた小品でした。プログラムのさいごにおかれたピルシュナーの《ハンマーをポケットに入れてる男》は全7曲からなる作品で、各曲に人を喰ったタイトルが付けられています。<T.99歳はもうすぐ・・・老化について><U.贈り物・・・ジャン・リュック・ゴダールの為に><V.超楽天家・・・芸術をめぐる馬鹿騒ぎ><W.ピンテル夫妻・・・優秀な大使と才能ある画家の夫妻><X.画家ピンテル氏との対話・・・赤ワインとアクアビットも><Y.役所の異常な鳥・・・官僚主義についての考察><Z.ハンマーをポケットに入れてる男・・・賛辞>。どうですか。タイトルにある男とは、エリック・サティを指し、第7曲はまさしくサティ賛歌というべき内容になっているらしいのですが、サティをパクっているわけではないようですから、言われなければ、そうとはわからないと思います。

とまあ、あまり考えすぎずに楽しめるプログラムになっていますが、よくよく考えると充分に練られたプログラミングがなされていると思います。アンコールを演奏する前に、来年もやりますから、と言っていました。この日は、ところどころ小さな傷もきこえてきましたが、それは今後改善していかれることでしょう。そして年1回のペースでコンサート、いやライヴが積み重ねられていくとして、たとえば10回のうち1回くらいは、本当にライヴハウスで行なうようなプログラミングが考えられても面白いな、と外野にいる私は勝手に夢想したのでした。ともあれ、ブラス・アンサンブル「BLOW」の名は、覚えておいてチャンスがあったら聴いてみましょう。

忘れるところでした。拙HPのリンク集から「Ottohorn」(← 藤田乙比古さんのHP)を開き、その中の「コラム」にある「ホルン奏者とブラスアンサンブル」を読んでみてください。ホルン奏者の立場から、ブラスアンサンブルを考察した藤田さんの興味深いエッセイが読めます。
【2004年6月10日】


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