第79回:東京室内歌劇場《サテュリコン》日本初演(東京キネマ倶楽部)

鶯谷にある東京キネマ倶楽部を会場にして、ブルーノ・マデルナ(1920−1973)が残したオペラ《サテュリコン》の日本初演が行われました。で、その初日にあたる3月3日に行ってきました。原作は、皇帝ネロの時代のペトロニウスが書いた古代小説で、もちろん舞台は古代ローマ。さて、主なスタッフとキャストからご紹介しましょう。

演出:黒澤潤
指揮:本名徹次
演奏:EnSemble SatYRlcON(コンサートミストレス:漆原啓子)
トリマルキオ:大岩篤郎
フォルトゥナタ:三橋千鶴
ハピンナス:吉田伸昭
スキンティラ:半田美和子
クリシデ:薗田真木子
クァルティラ:上杉清仁
エウモルポス:菅野宏昭
ニケロス:原田圭

原語上演でしたが、それがなにしろ英語、フランス語、ドイツ語、ラテン語にわたっているのです(字幕が頼り)。そして、オペラのナンバーの曲順すら、実は上演のたびごとに異なってくるというのです。さらに、演奏されるナンバーに数多くの過去の名曲が引用されていて、それらが特定の時代の作品群だけに限らない広がりをみせている特徴もあわせもっていました。演奏は楽しめました。

平和で繁栄を謳歌した時代として、マデルナは古代ローマと現代をリンクさせようとしたのでしょう。「超」がつく成金トリマルキオは自分のサクセス・ストーリーをしっかり身体にたたきこんで金のありがたさを知っているように見受けますが、それにしても飽食状態で身体がいうことをきいてくれません。その妻フォルトゥナタは今がよけりゃいいじゃないのとばかり、贅沢をきわめ、慾を満たそうと余念がありません(他の登場人物も活躍します)。で、どうなるかです。これは演出によるところが大きいのですが、今回は、幕切れでレスキュー隊が思いっきり消毒液を散布するという仕掛けが用意されていたのです。それは、さいきんの日本で言えば「鳥インフルエンザ」の発症地域で行われているあの姿にほかならず、私はなんとアップ・トゥ・デートな演出なんだろうと思ったものでした。あとでプログラムを読むと、演出家は他のアジアの国で豚から発症しとされた伝染病SARSが猛威を振るったことにヒントを得て、こうした演出になったのだそうです。さいきんでは、このほかにもBSE問題も再燃しましたし、それに追い討ちをかけるようにして鳥インフルエンザです。なにやら終末が近づいてきたのだろうか、という気にさせられもします。でも、それは演出について「考えた」ときの話で、マデルナの作品そのものからそうしたメッセージが伝わってくるとは言えないのです。この作品は、もっといろいろな可能性を演出家に委ねようとする面があるのでしょう。ただ、過去の名曲の引用も、どうしてそこに持ち出されてきているかまではわかららず、ちょっと戸惑いながら聴きました。

もう一度見る機会があったとしても、行くかどうかきっと迷うだろうな、と思います・・・。
【2004年3月11日】


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