第75回 : オペラ《ルル》全3幕完成版日本初演(日生劇場)

日生劇場は今年で開場40周年を迎え、その記念の特別公演としてアルバン・ベルクのオペラ《ルル》全3幕完成版(フリードリッヒ・ツェルハ補筆)がとりあげられました。私は11月24日(月、祝)に見てきました。

主なスタッフとキャストは次のとおりでした。

ルル 天羽明惠 画家/黒人 吉田浩之
ゲシュヴィッツ伯爵令嬢 小山由美 シェーン博士/切り裂きジャック 大島幾雄
アルヴァ 福井敬 ジゴルヒ 工藤博
劇場の衣装係/学生/ボーイ 林美智子 猛獣使い/力業師 池田直樹
医事顧問/銀行家/大学教授 勝部太 公爵/従僕/女衒 近藤政伸
演出 佐藤信 装置・衣装 レギーナ・エッシェンベルク
指揮 沼尻竜典
管弦楽 東京フィルハーモニー交響楽団

主人公ルルは、男を惑わす魅力をたっぷりもった魔性の女性だという設定になっています。第1幕では二人の男が死にます。夫である医事顧問が心臓発作で、次の夫となった画家が自殺で、という具合です。ルルの愛人シェーン博士は、自分の結婚のためルルに絶縁を迫りますが、逆にルルに言いくるめられて結婚を白紙に戻します。12音技法で書かれたオペラですが、歌手の声とオーケストラの響きがともによく聞きとれ、私は舞台に惹きつけられていきました。

第2幕では、ルルはシェーン博士の妻となっています。ルルがもっとも望んだ相手だったのですが、同性愛の女性やシェーン博士の息子で音楽家のアルヴァ、いやそのほかにもルルに言い寄ってくる人間はあとを絶ちません。堪忍袋の緒が切れたシェーン博士はルルにピストル自殺を促しますが、逆に撃ち殺されてしまいます。もちろん逮捕されますが、伯爵令嬢の力添えで脱獄を果たします。この幕では、とりわけ小山由美さんの歌唱と一種異様な雰囲気を醸し出していた演技に目をみはりました(その身にまとった紫色のドレスも雰囲気づくりに作用していたかもしれません)。

第3幕はツェルハが補筆し、完成しました。すでに財力も乏しくなっていたルルですが、パリのサロンで持ち株が暴落し無一文になります。そして警察の追っ手をふりきり、間一髪のところでロンドンに逃避します。ここでルルを待ち受けていたのは、娼婦としての生活。その最初の日に客を装ってきた切り裂きジャックに殺されてしまうのです。ロンドンでのルルは薄化粧で、服装も身体の線こそはっきりわかるのですが地味なものでした。私には、このルルが娼婦なのだというイメージがどうしても湧いてきませんでした(たとえば、休日のOLさんみたいな感じに見えたといったら良いのかもしれません)。もっと化粧を濃するとか、胸元が大きく開いた衣装を用意するとか、何か考えられなかったのでしょうか(演出家は、厚化粧するには化粧代がかさむという論理で薄化粧を選んだのかもしれませんし、それならそれで筋は通るのですけれど・・・)。

不条理劇をオペラ化したものとしては、この作品はやはり出色のものでしょう。その価値を充分に伝えてくれた公演だったと思います。ちなみに、全3幕完成版日本初演は、今回日本人の手でなされたわけですが、従来からの2幕版も上演価値があるのだそうです。そちらは日本人の手による上演はされていないというのですね。私は、どちらの版でもいいですから、また機会があれば見に行きたいと思っています。
【2003年11月30日】



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