第67回 : オペラ《青の洞門》(東京文化会館大ホール)

去る1月25日(土)、上野の東京文化会館でオペラ《青の洞門》が上演され、でかけてきました。ここが主催する舞台芸術創造フェスティバル2002の一環としての公演です。そして、このオペラは第4回大分県民芸術文化祭賞大賞を受賞した作品でもあるのですね。原作は菊池寛の『恩讐の彼方に』、台本・作曲が原加壽子で、3幕仕立てのオペラに仕上げられていました。主なスタッフとキャストを紹介すると

演出 桂直久 美術・衣装 朝倉摂
市九郎(了海) 糸永起也 実之助 山本裕基
お弓 野村高子 石工の棟梁 中津川洋司
合唱 本耶馬渓町コーラスもみじ、大分県県民オペラ合唱団、大分ジュニアコーラス
管弦楽 東京ニューフィルハーモニック管弦楽団
指揮 山田啓明
ストーリーはこうです。江戸で自分の主人を殺めた市九郎は、お弓とともに木曽に逃れ追い剥ぎをして暮らしていましたが、そんな生活がいやになり、仏にすがる気になります。こうして、出家して了海と名を改め諸国行脚の旅に出て、九州は豊前、山国川にさしかかったとき、人馬が激流に落ちてしばしば命を落とす「鎖渡し」を体験したり、事故を間近に知ります。そして、その箇所に人が安全に通れるトンネルを掘り始めます。諸人救済の大誓願だというわけです。18年の歳月が経ち、はじめのうち、了海を相手にしなかった里人たちも心を動かされ、郡奉行から石工30人の寄進を受けるにいたります。完成が間近に迫った時、江戸で殺めた主人の息子・実之助が仇を討とうと了海の前に現われます。討たれようとする了海でしたが、石工の棟梁が洞窟の完成まで待ってくれと頼みます。実之助は、早く仇を討ちたいばかりに了海の仕事を手伝い、完成の日をまちます。そして、洞門(トンネル)が通じた時、実之助の心から了海を討つなど思いも及ばぬこととなり、二人は手をとり感涙にむせぶのでした。

ストーリーの骨の部分だけ拾い出すと、
侍が主人を殺し仇もちになる → 仏門に入り善行に励み、前非をつぐなう → 昔の主人の縁者が仇を討ちに来る → その善行をみて仇討ちを思いとどまる(ハッピーエンド)
私は、このオペラに初めて接してた関係もあってか、ストーリーの骨をつかみながら見ていたので、こういうのって、ときどきテレビの時代劇などで見られるパターンだよなあ、といった物足りなさを感じていました。またオペラじたいが、間延びする箇所なく展開していくのですが、私には、実之助から了海の仇を討とうとしていたその思いが消えた心の動きが、いまひとつわかりにくく感じました。

終演後、プログラムを、特に「青の洞門」ができたいきさつを読んで、小説と史実にいくぶん違いはあるものの、大分の本耶馬渓町辺りの皆さん方にとっては、このトンネルがなくてはならないものになっていることをあらためて知り、時代劇にときどきあるパターンで物足りないという、自分の考えを改めました。その土地の歴史に根ざした物語がオペラ化されるのは、歓迎すべきことだと思いますから。今回のようにオペラを見て、自分の知らない地方の歴史を知ったのは、初めての経験だったように思います。
【2003年1月30日】


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