第52回 : バイエルン国立歌劇場公演《トリスタンとイゾルデ》(NHKホール)

バイエルン国立歌劇場がモーツァルトの《フィガロの結婚》、ベートーヴェンの《フィデリオ》、そしてヴァーグナーの《トリスタンとイゾルデ》の3演目をもって来日しました。私は、これまで実演に接したことのない《トリスタンとイゾルデ》を選んで、公演日(9月30日)を心待ちにしていました。当日のキャストなどをご紹介します。

トリスタン ヴォルフガング・ミュラー=ローレンツ クルヴェナール ベルント・ヴァイクル
マルケ王 クルト・モル メロート ステファン・グールド
イゾルデ ワルトラウト・マイヤー ブランゲーネ ヴィオレッタ・ウルマーナ
合唱 バイエルン国立歌劇場合唱団
管弦楽 バイエルン国立歌劇場管弦楽団
指揮 ズービン・メータ 演出 ペーター・コンヴィチュニー

全体を通して観て、この作品はストーリーの展開がとてもゆっくりしていますので、どうも私には今ひとつ馴染めないものとなりました。これは、演出とか演奏とかの問題ではなく、飽くまでも個人的な趣味の問題ですけれど・・・。だから、将来別の機会にこの作品を観に行くかと聞かれたら「わからない」と答えざるを得ません。それにしても休憩(40分が2回)を含めて5時間にわたる公演となると、体力も気力もある程度残っているうちに観ておきたい作品だと思っていましたから、私にとって今回はグッド・タイミングだったと言えます

前奏曲が鳴りはじめた時、オーケストラは澄んだきれいな響きを出すのだなと感じましたが、そのうちに物足りなさを感じ始めました。どちらかというと、歌手におとなしく伴奏を付けているといった印象が残り、ここ一番盛り上がるのかなと思う箇所でも、意外とスマートにまとめられていった感があったものですから。でも、これはメータの問題かもしれません。それと、案外こまかいミスやアインザッツの不揃いなどもありましたね。

幕が開くと、舞台の上にもう一つ箱型の舞台がしつらえられていて、第1幕はそこが豪華客船のデッキの上といったところです。下手(しもて)で物思いにふけっているイゾルデがいて、中央には朝日を浴びて悠々としているブランゲーネ(こちらの方が堂々としている)がいます。そこへアイス・コーヒーかアイス・ティーみたいな飲み物が運ばれてきたりして、さっそくビックリ。こうしたビックリを何度か味わいながら、舞台は進行していきます。視覚的に一番驚いた箇所は、第2幕。危険を冒して森の中で愛を語らうトリスタンとイゾルデですが、なんとトリスタンは登場したあと、一度上手(かみて)に下がり、再度登場したときにはソファをもって出てきたのです!! 「おおー、こんなのありかよー」と思ったのは言うまでもありませんが、森の中にわざわざソファを持って行くわざとらしさには、ちょっと参りました。これは、やっぱり地ベタリアンのほうが似あいますよねぇ(!?)。仮に、この演出に「死と救済」といったテーマが現代的な風刺とともに織り込まれているとするならば、私には読み取れませんでした(演出を責めているのではありませんよ。オペラ体験の乏しい私にとっては、ということです)。ペーター・コンヴィチュニーの演出は、日本では初めて紹介されるのだそうです。時代考証をじっくりと、というタイプではなく、まあツボにはまった時は面白いのだろうなと想像しました。歌手陣には満足。特に第2幕の後半以降から登場したマルケ王のクルト・モル、クルヴェナールを歌ったベルント・ヴァイクルなどは「超」が付くほどすばらしかったです。

ついでですが、私は会場でプログラムではなく、”Hothouse of Emotion The Bavarian State Opera”という、この歌劇場の歴史を書いた図書を買い求めました。巻頭と巻末には、上演した作品の舞台写真が載せられていますが、どれも斬新でびっくりしました。現地では、きっともっと刺激的な公演が行なわれているのかなと思わせるものでした。次回以降の来日に期待していいのかな?? (期待したいですけどね・・・)
【2001年10月4日】


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