第45回 : PETETOK第1回演奏会(すみだトリフォニー小ホール)

6月7日(木)、PETETOK第1回演奏会に行ってきました。PETETOKって何だろうと思いながら会場に向かったのですが、プログラムに載った神長貞行さんと梶俊男さんの「ご挨拶」によれば、アイヌ語で「川・行く先」という意味だそうです。この2人の作曲家が共同で企画する新作発表コンサートで、今回が第1回、以後半定期的に続けていきたいと述べておられます。まず、早速プログラムからご紹介しましょう。
梶 俊男 a wood think ... lost days, coming days (改訂初演)
毛塚 功一(ギター)
神長 貞行 Silent-Pulse "Entrainment" for Violin and Viola (初演)
手島 志保(ヴァイオリン)  東 義直(ヴィオラ)
宮澤 一人 フラクタル III (Fractal III) (初演)
曽我部 清典(トランペット)  中川 俊郎(ピアノ)
神長 貞行 Silent-Pulse "Moire" for Pianoforte (改訂初演)
中村 和枝(ピアノ)
豊住 竜志 宮沢賢治の詩による四つの歌曲・・・文語詩集より(初演)
    1.きみのならびて野に立てば
    2.川しろじろとまじはりて
    3.ただかたくなのみをわぶる
    4.夕陽は青めりかの山裾に
佐藤 光政(バリトン)   豊住 竜志(ピアノ)
梶 俊男 "anamorphosis" for string trio
手島 志保(ヴァイオリン)  東 義直(ヴィオラ)  山本祐ノ介(チェロ)

今回、企画者のお二人は、宮澤一人さんと豊住竜志さんに参加をお願いして、演奏される作品すべてが「初演」または「改訂初演」ばかりのコンサートを実現させました。実は私も、宮澤一人さんから連絡をいただいてこのコンサートを知ったのでした。順不同で、感想を書いていきましょう。

梶さんのギター作品は旧作に手を加えたもの。聴きやすいといえる曲でしたが、意外と長く30分弱かかったでしょうか。最後に演奏された弦楽三重奏のための作品は、グリッサンドや4分音がぶつかり合う作品で、プログラムの演奏者欄には載っていませんでしたが、実際のステージには作曲者が登場。座って指揮をなさっていました。弦楽三重奏で指揮者つきか、と驚きました。この曲は動的なイメージが強く、けっこう引き込まれて聴きました。

神長さんの2つの作品も、一つは新作、他方は旧作に手を加えたものです。2つの作品にに共通する特徴は、この人が《Silent-Pulse》という発想(=実際には聴こえる筈もないけれど心理的に聴こえてきそうなものに着目するそれ)を注入して書いたものだ、ということです。ピアノのための《Silent-Pulse》である"Moire"は、曲の開始部分で「キーン」という金属音らしき音が聴こえた(ように思う!?)のですが、あれって何だったのでしょうか? 

今回唯一の歌曲は、作曲者豊住竜志さん自身のピアノ伴奏と佐藤光政さんの独唱で初演されました。なんといっても歌詞が文語で、しかも歌われるその場でその内容までしっかり聴き取るのは難しいことですが、佐藤さんの歌唱は、かなり明瞭だと思いながら聴いていました。また、歌詞がプログラムと別に添えられていましたので(歌っている最中は暗くて読めませんでしたけれど)参考になりました。

宮澤一人さんの《フラクタル III》。コンピュータのディスプレイに徐々に描かれるフラクタル図形をじっと眺めたときに、予期しない変化やある種の複雑さを認めることができるといいますが、これを音楽に持ち込むことにより、新しい形式感を生み出そうというわけです。今回のトランペットとピアノのための作品では、トランペットの旋律(音形)が予期せぬ変化をしていき、ピアノはそれに関わる、とされています。ある音形の変化が認められた始めの部分、ゆったりとした趣の中間部分、また音形の変化が強調された最後の部分というように聴こえましたが、演奏が素晴らしかったです。ただ、私は、確かに音形の変化を少しは聴き取れた気がするのですが、どちらかというと演奏に圧倒されて、「予期せぬ」変化を実感することまではできませんでした。ま、初演ということもあり、機会があればまた聴いてみたい作品です。

さいきんの作曲家たちは、PC(どうしてもMacになるんでしょうね・・・)を使って楽譜を書く人たちが増えたのでしょう。会場には、楽譜を展示してあるコーナーもあり、自由に手にとって見られるようになっていました。私は宮澤さんのだけ、ちょっと拝見しましたが、こうした試みは定着していくといいと思いました。
【2001年6月9日】


トップページへ
通いコン・・・サートへ
前のページへ
次のページへ