第43回 : ブゾーニの《ピアノ協奏曲ハ長調》(東京オペラシティ コンサートホール)

4月22日(日)、ブゾーニの《ピアノ協奏曲ハ長調(男声合唱付き)op.39》の全曲日本初演を聴いてきました。考えてみると、私はブゾーニの作品て、初めて聴くのだと思います。ともかく長大だというこの曲を、事前にCDで聴いていきましたが、これは正解だったなと実感しました。さて、このままいくと話がバラバラになりそうなので、まずは当日のプログラムからご紹介しましょう。

    1. モーツァルト(ブゾーニ編曲) 歌劇《ドン・ジョヴァンニ》序曲
    2. 解説・お話  長木誠司
    3. ブゾーニ    ピアノ協奏曲ハ長調(男声合唱付き)作品39

        演奏: マルク=アンドレ・アムラン(ピアノ) 東京フィルハーモニー交響楽団 沼尻竜典(指揮)

1曲目の《ドン・ジョヴァンニ》序曲は、ボーッとして何の気なしに聴いていましたが、終わり方がいつもと何か違うかな、とは思いました。とはいえ「違う!」と言い切れるほどの自信も持てず、モーツァルティアンでもないことだし「わかんない。まあ、いいや」と気にしないことにしました。

ところが、ブゾーニ編曲の《ドン・ジョヴァンニ》序曲の最後の部分には、オペラ全体の最後におかれた六重唱《これが悪人の最後だ》が取り入れられているというのです。もちろん元の序曲には無いのです。これはプログラムをよく読むと書いてありました(汗)。ステージに登場された長木誠司さんのお話によれば、19世紀にはドン・ジョヴァンニが地獄に落ちたその後で、あの軽快な六重唱は似つかわしくないと、カットして上演されることも多かったとか。それに対しブゾーニは、ここは大事な箇所だからカットすべきではないと考え、敢えてこの部分を足して序曲を編曲したようです。ブゾーニが、当時の演奏習慣に浸ることなく、作品をじっくり読む人だったのかなと思わせる話です。

約15分にわたる長木さんの「お話」に続いて(そう、コンサートには休憩がありませんでした)、当日のメイン・イベヴェント、ピアノ協奏曲の全曲日本初演が始まりました。この作品は全体が5楽章からなり、それだけでも通常の協奏曲らしくありません。次いで第5楽章には男声合唱が配置される点も、かなり特異な協奏曲と言えるでしょう。さらに、第2楽章や第4楽章にみられるようにイタリアの旋律がふんだんに聴き取れることも特徴といえるでしょう。

第1楽章<プロローグと入祭唱>−第2楽章<おどけた楽曲>−第3楽章<厳粛な楽曲>−第4楽章<イタリア風に>−第5楽章<讃歌>と、これら5つの楽章は切れ目なく演奏されました。第2楽章と第4楽章はナポリの旋律が登場し、楽しめました。第3楽章は、とても長い時間がかかるのです(25分ほど!)が、退屈することはありませんでした。第5楽章は男声合唱が入ってくるのですから驚きです。《アラーへの讃歌》を歌うのですが、イスラム教という特定の宗教を讃美する目的ではないといいます。キリスト教に頼らないところなど、「神は死んだ」で有名なニーチェの影響もあるとみて良いのでしょうか?

かくして約75分におよぶ協奏曲の演奏が終わりましたが、独奏者、指揮者、オーケストラ、合唱団いずれも力のこもった演奏で、緩んだところが無かったと思います。聴き終わった時、長くて疲れたなんて全然感じませんでした(充実感でいっぱい!!)。珍しい作品だというだけでは、こうはいかないでしょうし、演奏も良かった証だと思います。
【2001年4月26日】


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