第37回 : ヘンツェのオペラ「ヴィーナスとアドニス」(NHKホール)

1月12日(金)、NHK交響楽団第1424回定期演奏会に行って来ました。ヘンツェのオペラ「ヴィーナスとアドニス」(1993―95)の日本初演がありました。コンサート形式だったのですが、視覚的要素もかなり盛り込まれていました。出演者は、シャロン・スピネッティ(ソプラノ)/クリス・メリット(テノール)/ウルバン・マルムベリィ(バリトン)/二期会合唱団メンバー(マドリガル)/田中泯と桃花村(演出・振付・舞踏)/NHK交響楽団/準・メルクル(指揮)でした。オペラは、約70分の一幕ものでした。

実は、11日のうちに Canadian Opera のホームページを覗いておきました(URLは、http://www.coc.ca/2001venus.htm )。ここのシノプシスを見て、それに翻訳ソフトをかけてみました(ひどい訳には違いないのですが、それでも無いよりはずっとマシ)。これは、定期当日、会場入口で渡された曲目解説の冊子だけでは掴みきれないところまで書かれていましたから、ざっとであれ、目を通していて良かったです。

このオペラの時間の推移は、夜明けから始まり、正午を通過し、日が暮れ、夜で終わります。登場人物ですが、神話に登場する美の女神ヴィーナスと軍神マルス、それに美少年アドニスが一組目。二組目は、プリマ・ドンナ、英雄役、若いテノール歌手クレメンテ、いずれも人間です。あと、牝馬、牡馬、牡猪、これが三組目といえるでしょうが、動物ですね。それに羊飼いが6人(マドリガルを歌います)。あと、ここが特徴的なのですが、ダンサーが登場し、ヴィーナス、マルス、アドニスの役を踊ります。

作品はシンフォニーアで始まり、マドリガル T、レチタティーヴォ T、ボレロ Tと舞踏歌、マドリガル U、ボレロ Uと舞踏歌、レチタティーヴォ U、ボレロ Vと舞踏歌、レチタティーヴォ V、ボレロ Wと舞踏歌、マドリガル V、パントマイムとレチタティーヴォ W、ボレロ Xと舞踏歌、マドリガル W、ボレロ Yと舞踏歌、そして挽歌とエピローグで幕を閉じます。

当日、舞台の上にはオーケストラが3群に分かれて配置され、舞台後方には一段高い舞台がしつらえられていました。シンフォニーアに続いて羊飼いたちが登場し、後方の舞台でマドリガルを立ったまま歌います。その後のレチタティーヴォ Tではプリマ・ドンナと英雄役が舞台前面の指揮者のそばで前夜見た夢についてやりとりをするのですが、その時、後方の舞台は明るさが増し、羊飼いたちは木々の下に腰をかけています。木々がはっきりわかるようになったことなども変化のうちです。前述のカナディアン・オペラのHPでは、オリーヴの木々の下とありましたから、私は、この木々をオリーヴなんだなと思いながら見ていました。舞台が進行していくと、ダンスも見ることができました。

物語はこうです。軍神マルスの気持ちは美の女神ヴィーナスに向いています。しかしヴィーナスは美少年アドニスを口説きますが、一度は拒絶されます。ヴィーナスはアドニスよりもかなり年上で、自分の「老い」を気にします。マルスは激しい「嫉妬」を覚えます。アドニスはしかし、最後には、ヴィーナスの気持ちを受け容れます。マルスは、嫉妬からアドニスを殺します。この三角関係の展開が、人間世界のプリマ・ドンナ、英雄役、若いテノール歌手クレメンテの間でも、ほぼ同時に進行していきます。動物まで、登場します(なかなかユーモラスでかわいい)。殺されたアドニス(またはクレメンテ)は、星になる(つまり<変容>する)のです。この最後の歌唱は、羊飼いたちとのやりとりになるのですが、なんとも強烈な印象が残りました。ただ、「若さ」「老い」「嫉妬」「変容」などが出てくることは解かるのですが、どうもピンとくるところまでは行きませんでした。初めて見て、そこまで行けないとしてもしかたないか、というのが私の判断です。

もう一つ把握できなかったのは、3群のオーケストラが、それぞれの登場人物に対応して分けれられているという点に気付かずに見たり聴いたりしていたこと。う〜ん、残念。とはいえ、市販の解説書にも載っていない現代物のオペラですからね、一度見て、わからなかったり気付かなかったりした点があったとしても仕方ありません。むしろ私にとっては、部分的にであっても強く印象に残った箇所もありましたし、全体としては面白いなというのが感想です。将来ふたたび見られるものなら、コンサート形式ではなしに、ちゃんとオペラとして見たいです。その時は、この作品に含まれるキーワードまで味わえるかどうか、それも楽しみです。海外でも、短期間のうちに結構上演されているようですから、<その日>を楽しみに待ちたいと思います。
【2001年1月14日】


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