第36回 : 「伊福部昭作品による」藍川由美リサイタル(東京文化会館小ホール)

2000年10月28日(土)の午後、私は上野にいました。2時ごろから国立西洋美術館の企画展を見て、4時から藍川由美さんのリサイタルを聴きました(展覧会については別途書きます)。どちらも充実した時間でした。

さてリサイタルのプログラムからご紹介しましょう。

伊福部昭 アイヌの叙事詩に依る対話体牧歌  独唱とティムパニーのための  (1956)  伝承詩
藍川由美(ソプラノ) 長谷川友紀(ティムパニ)
伊福部昭 摩周湖  ソプラノ,ヴィオラとハープのための  (1992)  更科源蔵・詩
藍川由美(ソプラノ) 百武由紀(ヴィオラ) 木村茉莉(ハープ)
伊福部昭 頌歌「オホーツクの海」  ソプラノ、ファゴット、コントラバスとピアノのための  (1988)  更科源蔵・詩
藍川由美(ソプラノ) 吉田将(ファゴット) 黒木岩寿(コントラバス) 岡田知子(ピアノ)
伊福部昭 因幡万葉の歌五首  ソプラノ、アルトフルート、二十五弦箏のための  (1994)  大伴家持、大伴坂上郎女・歌
藍川由美(ソプラノ) 中川昌巳(アルトフルート) 野坂惠子(二十五弦箏)
伊福部昭 蒼鷺  ソプラノ、オーボエ、ピアノとコントラバスのための  (2000/世界初演)  更科源蔵・詩
藍川由美(ソプラノ) トーマス・インデアミューレ(オーボエ) 岡田知子(ピアノ) 黒木岩寿(コントラバス

今回歌われた5曲のうち4曲が北海道に因む曲でしたが、これは伊福部昭さんの歌曲の特徴と言えるでしょう(CD「伊福部昭・全歌曲」のHPも参照 → http://www.jade.dti.ne.jp/~onodera/cd_ifukube.html)。さらに3曲が、更科源蔵の詩に作曲したもので、うち最後に演奏された1曲は、この日のために書き下ろされた新作でした。

《アイヌの叙事詩に依る対話体牧歌》はアイヌ語の伝承詩によって書かれた曲でしたから、訳詞を見ながら聴かないと内容がわかりませんでした。でも、それ以外の4曲は、音楽はもちろんのこと、歌詞にじっくりと耳を傾けながら聴きました。《摩周湖》と 頌歌《オホーツクの海》では、アイヌ民族の悲哀が歌詞に盛り込まれています。《摩周湖》は、もともと「ソプラノ、ヴィオラとピアノのための」作品だったそうですが、今回演奏されたようにハープ版も作られたのことです。ピアノも良いでしょうが、ハープの柔らかい響きは魅力がありました。《蒼鷺》は、インデアミューレのオーボエが味わい深い音色でソプラノをサポートしていました。

私は更科源蔵のことを知りませんでした。インターネットで検索してみると、けっこう多くのサイトにその名が登場します。今回、お世話になったのは「更科源蔵 大地と自然と人間と・・・」(http://www.marimo.or.jp/~doyu/sarashina/00.htm)というHP。更科源蔵の公式HPではありませんが、北海道中小企業同友会釧路支部マルチメディア研究会が管理・運営しています。私は、さきほど「アイヌ民族の悲哀」とこともなげに書きましたが、実は、そのあたりの歴史には疎いです。ですから、藍川さん(あるいは作曲者の伊福部さん)が伝えようとしてしたメッセージを、きちんと受け止めることができたのかどうか、いま一つ自信がありません。更科を取り上げたHPを探してみようと思い立った動機は、そこにありました。

今回のリサイタルは、演奏や作品が素晴らしかったというだけでなく、結果的に私の視野を少し広げてくれたようです。
【2000年10月29日記】


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