第29回 : 東京室内歌劇場<オペラ400年>記念公演(新国立劇場小劇場)

2000−400=1600 というわけで・・・
東京室内歌劇場は、エミーリオ・デ・カヴァリエーリ『魂と肉体の劇』ヤーコポ・ペーリ『エウリディーチェ』を、新国立劇場小劇場で上演しました。1600年に上演されたこれら2つの作品が、オペラの始まりというわけです。どちらもオペラとは言っても、独唱の箇所など、話しことばと歌の中間くらいですから「ふ〜ん、これもオペラ?」といった感は拭えません。それと、2つの作品は1日で2本立てではなく、1日1演目で行なわれました。ちなみに、私は『魂〜』を5月2日(火)に、『エウリディーチェ』を5月3日(水)に見ました。

実は東京室内歌劇場は、『魂と肉体の劇』を1995年12月に東京カテドラル聖マリア大聖堂と目黒にある聖アンセルモ・カトリック教会で、『エウリディーチェ』を1997年7月に紀尾井ホールで、それぞれ上演しています。私は前回、どちらもあらすじを追うだけで精一杯でしたが、今回は少しゆとりをもって見ることができたみたいです\(^o^)/

ところで以前は、楽譜が残っているオペラ作品としては、ペーリの『エウリディーチェ』が初めてのモノだよ、と言われてきたように思います(1600年10月上演)。しかし、1600年2月に上演された『魂と肉体の劇』も、初めてのオラトリオか、初めてのオペラかといった議論があるものの、充分にオペラとみなし得る根拠があるのだといいます。参考までに、戸口幸策先生の著書から、一部引用させていただきましょう。
『魂と肉体の劇』は、従来もっとも古いオラトーリオのひとつと見做されてきたが、その後のカリッシミらの正真正銘のオラト−リオが、上演されない音楽劇であることを示す語り手役を持っているのに対し、この劇にはその役が欠けていること、それが上演されたこと、音楽の様式が『エウリディーチェ』などと同じであることなどを考えれば、たとえこの作品がギリシャ悲劇の復興運動と直接には関わりのないキリスト教の宗教劇であったとしても、それをオペラという種目から外さなければならない積極的な理由は見当たらないのではないかと思われる。
戸口幸策『オペラの誕生』(東京書籍 1995 p.71)
さて『魂と肉体の劇』ですが、 <肉体>と<魂>が天と永遠の命と主を探し求めに行き、信仰の試練を受け、時に迷いますが、さいごは天に昇っていきたい、偉大な主を讃美しよう、というあらすじです。現世の愉しみは刹那的でダメだという教訓が込められているようです。劇場のステージを現世に、オケピットの横に地獄を、舞台より高い位置に当たるサイド座席のステージよりの一角に天国を、と立体的な舞台を楽しむこともできました。時にエコーもかかっていたように聴こえました。そう、<肉体>と<魂>は、若いサラリーマンとOL風の二人という設定で、一瞬「えっ!」と思いました。もっと驚いたのは天国に登場する、<天の天使たち>や<祝福された魂>が膝上のミニスカートをはいた女性陣だったこと。またしても、ちょっと驚きました。でも、これは計算された演出だとしたら? と考え直してみました。400年前のローマでは、この劇の教えがありがたく尊ばれたとしても、現代の私たちの前に提示するときに、天国、現世、地獄の違いが昔ほど大きくないとも考えられるとすれば、三者の差をきわだって示す必要がなかったのかもしれない、と思うようになりました。すると演出にも納得が・・・。自分に都合よく考えすぎでしょうか(笑)
5月2日の主な出演者とスタッフ:
小泉惠子(魂)、鎌田直純(肉体)、太田直樹(時)、羽山晃生(知性)、青山貴(忠告)、愛甲久美(快楽)、佐橋美起(守護の天使)・・ ・/ 東京室内歌劇場アンサンブル 若杉弘(指揮) / 鈴木敬介(演出)


次に『エウリディーチェ』ですが、蛇にかまれて絶命したエウリディーチェを追って黄泉の国へ行ったオルフェオが、自慢の竪琴と歌を披露し、かの国の王・プルトーネの心を動かします。そして原作とは違って、めでたく二人そろって帰還するという内容になっています(結婚式の祝いで上演されたため、ハッピーエンドになったようですよ)。全体は有名な話ですし、大筋はステージを見ていれば、ほぼ分かるだろうなと思って見始めました。はじめに<悲劇>という人物が登場し、きょうはめでたい席なのでと歌うのですが、その最中にステージの後方で、オペラのダイジェストが演じられました。「う〜ん」と思った瞬間です。見る楽しみが減っちゃうような気がして・・・。ステージが進行していくと、牧人とニンフたちに囲まれ、幸せそうな表情を浮かべるエウリディーチェが登場し、その後一転してエウリディーチェが不幸に見舞われたことが伝えられます。この時のダフネの抑えた歌唱は印象的でした。やがて黄泉の国へ行ったオルフェオの活躍、そしてハッピーエンド。落ち着いて見ることができました。
5月3日の主な出演者とスタッフ:
毛利準(プロローグ[悲劇])、菅英三子(エウリディーチェ)、川上洋司(オルフェオ)、栗飯原俊文(ティルシ)、小貫岩夫(アミンタ)、山崎史枝(ダフネ)・・・ /
東京室内歌劇場アンサンブル 若杉弘(指揮) / 鈴木敬介(演出)

新国立劇場小劇場という場を良く生かした公演で、楽しませてもらいました。
【2000年5月7日記】


トップページへ
通いコン・・・サートへ
前のページへ
次のページへ