第11回 : オペラ『金閣寺』(東京文化会館大ホール)

三島由紀夫原作、黛敏郎作曲のオペラ『金閣寺』(大阪音楽大学ザ・カレッジ・オペラハウス制作)を見に、9月5日、上野の東京文化会館へ出かけました。

大阪音楽大学ザ・カレッジ・オペラハウスは、1985年に同大学創立70周年記念事業としてオペラハウスの建設が計画され、1989年に竣工しました。以降、専属のオーケストラや合唱団をもち、さまざまなオペラをてがけ、『金閣寺』も1997年に公演しているそうです。

この作品は、もともとベルリン・ドイツ・オペラの委嘱を受けて作曲されたものなので、なんとドイツ語(日本語字幕付き)。これは事前にわかっていましたから、四半世紀ぶりに原作を読んでいきました(正解でした。ちなみに、作曲者は生前、このオペラの日本語ヴァージョンに取り組んだことがあったそうですが、ドイツ語につけられた音楽は、どうしても日本語の音楽にならず、けっきょく断念したそうです)。

オペラは、原作に出てくる主人公・溝口の少年時代からのエピソードより主要なものを選び、時系列順に並べていきます。
なかでも、第2幕第2景と同第3景は圧巻でした。溝口は戦後最初の冬に金閣寺を訪れた米兵と日本人娼婦を案内しますが、二人がけんかをし、米兵に言われるままに娼婦の腹を踏みます(第2幕第2景)。しばらく経って、娼婦が案内人に腹を踏まれ流産したと訴えがあり、友人・鶴川から真偽を問われます。溝口は否認します(同第3景)。この場の、シラを切りとおす溝口とその表情を読み取ろうとする鶴川のやりとりは、緊迫感があり、眼が離せませんでした。
この箇所は、プログラムのあらすじには「溝口は否認し、鶴川は疑いもなくそれを信じる」と紹介されているのですが、果たしてそうでしょうか? それは原作の話で、今回のオペラでは、私にはそうは見えませんでした。鶴川は溝口の嘘を見破ったように思えました。そう考えると、後に別の友人・柏木が、鶴川は溝口が言った嘘に悩み自殺したのだと伝える箇所(原作に対する改変)も理解できる気がしてきます。

キャスト:井原秀人(溝口)、松下雅人(道詮)、安川佳秀(鶴川)、西垣俊朗(柏木)、児玉祐子(有為子)、坂井美樹(女)、星野隆子(娼婦)、オペラハウス合唱団、オペラハウス管弦楽団、岩城宏之(指揮)、栗山昌良(演出)

関西のプロダクションのオペラが東京で公演するのは、43年ぶりのことだそうです。力のこもった公演だったと思います。
【1999年9月7日記】


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