第8回 : ジャズ・ヴァイオリンに熱くなった夜

梅雨が明けてからというもの、朝から気温の高い日々が続いて、一仕事終えてコンサート会場へ足を運ぶころには熱さが身体の中に充満しています。こういう日は夕方の電車の中でも眠さが襲ってきて、コンサートの真っ最中も熟睡してしまうのではないかなと心配しながらサントリーホールの小ホールへ行きました。

7月29日は「サントリーホール サマーコンサート 1999 真夏のアコースティック・ライブ 第2夜」に当たる"寺井尚子 華麗なるジャズ・ヴァイオリンの世界"というライブ感覚のコンサート。演奏は寺井尚子(ジャズ・ヴァイオリン)、野力奏一(ピアノ)、鈴木良雄(ベース)、村上寛(ドラム)」といった面々でした。

演奏した曲目は
1. C ジャム ブルース
2. ユー アー マイ エヴィリシング
3. アイ・ラブズ・ユー、ポーギー(G.ガーシュイン)
4. サマーナイト(ハリー・ウォーレン)
5. リベルタンゴ(A.ピアソラ)
6. パキラ
7. モナリザ
8. ドナ・リー(チャーリー・パーカー)
9. 出会い(寺井尚子)
10. ダダ
11. シンキング・オブ・ユー(寺井尚子)
ご覧の通り、スタンダード・ナンバーあり、最近作あり(ピアソラなど)、オリジナルありといった具合でプログラムは多彩でした。
1曲目、ピアノ、ベース、ドラムの前奏に乗って登場した寺井さんは、にこにこしながら演奏を始めました。音もフレージングも文句なし。自然と私も身体が動いてしまいます。この人、結局ずうーっとにこにこしっぱなしで1曲弾き終えたみたいです。もちろん曲の途中で、ソロをヴァイオリンからピアノ、ベース、ドラムへとつないで各プレーヤーのアドリブを楽しみましたが、その最中、寺井さんはステージ上手の位置に場所を移して、でもやはり、にこにこしながらビートをとっているのです。ビートの取り方から、前へ前へとぐいぐいグループを引っ張っていく印象すら持ちました。ついでに言うと、ステージの端に移っても最も目立つのは寺井さんで、私はその一挙手一投足を見つづけました。
「アイ・ラブズ・ユー、ポーギー」は、ガーシュインの曲はオペラ『ポーギーとべス』からのナンバーです。有名なところでは、ヤッシャ・ハイフェッツがアレンジした「べス、ユー・イズ・マイ・ウーマン」がすぐに思い浮かぶのですが、女性の寺井さんは同姓が歌うナンバーをアレンジして聴かせたのだなと理解できました。
前半の最後を飾った「リベルタンゴ」。曲に対する思い入れはあるのでしょうが、それを少し押さえて、はじめの歌い出しの2音などは弓を小さく使って、しかしはっきりと弾き始めました。あとで考えてみると、こう演奏することで、最後の拍子にアクセントがつくタンゴの特徴もくっきりと浮かび上がるのでしょうし、何よりもピアソラに特有の憂いと音楽の芯の強さみたいなものが聴くものに伝わってきました。この曲は有名なチェリストがテレビCMで演奏していましたが、比較してしまうと、あのCMの演奏は歌謡曲調。より平易な表現をとったのかもしれませんが、私は断然寺井さんの演奏を取ります。
後半に演奏された「モナリザ」は、ヴァイオリンとベースのデュオ。また、「ドナ・リー」はピアノとヴァイオリンのデュオ。こんな趣向も凝らしていました。ことに「ドナ・リー」の掛け合いは絶妙。テライ・オリジナルの2曲は、私にとっては、ちょっとロマンチックに過ぎました。でも「シンキング・オブ・ユー」を弾く前のご自身の話によれば、自分の思い出がたくさん詰まった曲なのだそうです。

アンコールは「マック・ザ・ナイフ」。大いに満足して帰ってきました。
【1999年7月30日記】



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