第187回:映画「珈琲時光」の感想(2004年9月16日)

9月11日(土)に封切られた映画「珈琲時光」を見に、その初日に、新宿のテアトルタイムズスクエアに行ってきました。監督は台湾の侯孝賢(ホウ・シャオシェン)、主なキャストは一青窈、浅野忠信 、萩原聖人、余貴美子、小林稔侍といった皆さん。そして、この映画の公式サイトはこちら(→ http://www.coffeejikou.com/ )です。ほとんど映画を見ない私(理由は、こちら )なので、素朴な感想をできるだけ短めに記しておきましょう。

この作品は、ストーリーの起承転結を期待していくと肩すかしをくいます。そうではなくて、おそらくここ2〜3年のいずれかの夏の一定期間のあいだに(1週間とか2週間とか)、主人公であるフリーライターの陽子(一青窈)がどう生きていたかを「切り取って」見せたものだといえばよいでしょう。作品のはじめのほうで、ライターの陽子は、台湾出身で日本で暮らしその後中国にわたった作曲家・江文也(こう・ぶんや)をテーマに調べていることを、親しい古書店の二代目店主・肇(浅野忠信)に話します。次いで、墓参りを兼ねて高崎の実家に帰ったときに、陽子は母親に自分が「台湾の彼」とのあいだの子どもを妊娠していることを告げます。

この2つのトピックといくつかのエピソードを軸に、この映画はゆったりとした時間の流れで見る側を包み込んでしまいます。そういう次第ですから、見終わった瞬間、「あ、終わっちゃった」・・・。ちょっと物足りなさを感じたものでした。しかし、映像といっしょにゆったりできた充足感のようなものも一方にあって、なんとも奇妙な感じでした。

江文也について少し触れておきましょう。まず言っておくべきことは、この人は実在した作曲家でした。見始めてまもなく登場する古書店で陽子が手にしているCDは、実際にキング・インターナショナルから販売されているものです(Pro Piano Records KKCC-4339)。映画の中の江文也についての調査は、高円寺の古書店、戦前に銀座にあって江文也がよく通ったという喫茶店「ダット」の消息、そして本当のご遺族へのインタビューなどが映像にとられているのですが、まとまったシーンになっているわけではないので(ライターを生業としている人間の生身の生活を描くことに主眼が置かれているのですから当然ですが・・・)、まとまったかたちで印象に残りづらいというか、理解しづらいだろうなと思いました。BGMとして使われているピアノ曲は江文也の作品から選ばれていて、スクリーンのゆったりした運びに不思議とマッチしていました。帰宅して、あらためてCDを聴き直した次第です。

うーん、あまりくどくど書くのも野暮な気がします。あとは、見てのお楽しみということにしておきましょう。


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