第115回 : 映画『テルミン』(2001年8月16日)

小学生の頃、入った映画館で気分が悪くなったことがあります。その記憶が残ったためでしょうか、私は映画をほとんど見ません。数年前に何かを見た記憶があるのですが、即座に思い出せないで困っています。こんな私が久々に映画館に足を運びました。

どこでもやっているという映画ではありません。タイトルは『テルミン』。上映館は、恵比寿ガーデンシネマ2。8月11日に封切りで、最低1ヵ月くらいは、やっているそうです(上映終了日時は未定)。上映時間
   9:40/11:20/13:15/15:10/17:15/19:10/21:10(〜22:35)
で、9:40、21:10の回には予告上映がありません。料金は一般1800円

この映画は、1920年に旧ソ連のペトログラード物理工科大学で世界初の電子楽器として発明された「テルミン」を軸に、発明者レオン・テルミン(ロシア名=レフ・セルゲイヴィッチ・テルミン)、テルミン奏者クララ・ロックモア、モーグ・シンセサイザーの生みの親ロバート・モーグ、ビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソン、テルミンの従兄弟の孫でテルミン奏者のリディア・カヴィナ等々の証言がさまざまな角度から語られ、あいだに映像が挿入されていきます。すなわち、完全なドキュメンタリーでした。

楽器の発明者であるテルミンは、1927年、テルミンのデモンストレーションのためソ連国外へ出され、ニューヨークに活動の拠点を定めます。この頃レオン・テルミンとクララ・ロックモアは知り合います。1937年、テルミンは黒人ダンサー、ラヴィーナ・ウィリアムスと結婚。しかし翌年には、ラヴィーナの目の前でテルミンは男たちに拉致されたといいます。以後、アメリカでは(きっとヨーロッパでも)テルミンは消息不明。映画中の本人の証言によれば、シベリアで強制労働を経験したのち、軍事・保安関連技術の開発に従事。その後、モスクワ音楽院に職を得る。1967年、ニューヨーク・タイムズ記者のスクープでテルミン存命が西側に報道されたが、リディア・カヴィナの証言によれば、これがもとでテルミンは音楽院を解雇された。1991年、テルミン、ニューヨークを再訪。ここで、クララ・ロックモアと再会。一方、モーグやB.ウィルソンらの証言からは、電子楽器テルミンの魅力が一部の人たちを捕らえ、音楽シーンや映画シーンに使われ、生きながらえてきたことを伝えます。これらの証言のあいだにも多くの映像が挟まれて、興味は尽きませんでした。

実は昨年、テルミンに関する日本語で読める専門書(テルミン エーテル音楽と20世紀ロシアを生きた男』竹内正実著,岳陽舎刊,四六判,200ページ,2000年発行,税込み価格:2,100円)が出版されたのですが、私はこれを読んでいませんでしたし、テルミンについても、名前を知っていた程度でしたから、今回の映画は面白く見ることができました(逆に専門書も読み、楽器に対して基礎的な知識を持った人が見たら・・・? という疑問も残りますけど)。とはいえ、この楽器、演奏者が楽器に触れないで音を出すのです。読んで想像するより、見たほうが早いし説得力がありますよね。音色も、聴けば「ふう〜ん、どこかで聴いたような」という印象をもつ方が多いことでしょう。多くの演奏者が登場する中で、私は、クララ・ロックモアの演奏が一番印象に残りました。ただ、この映画の中ではリディア・カヴァイナの演奏が聴けません。これが心残りでしたが、「そうだ、そうだ」という方のためには、こちらのHPをご案内しましょう。彼女のHPですが、Music Examplesというコンテンツがあるでしょう。Real Playerがインストールしてあれば(または、ダウンロードしてインストールすれば)聴けますよ。たとえばラフマニノフの《ヴォカリーズ》など、映画のクララ・ロックモアのこってりした演奏とは対照的だと思いますが、現代的なセンスに満ちた演奏だと思います。ちなみにリディア・カヴィナは、1967年生まれ(女性の年をバラして恐縮ですが、件のHPのBiographyに明記してありますから問題ないでしょう)。

映画を見終わって、サイド・ストーリーともいうべきテルミン博士とクララ・ロックモアの愛情物語に感銘を受けて帰る人もいるでしょう(うん!)。でも、この楽器に興味を覚えて、自分でもやってみたいという思いを強くした人はいませんか? (私もちょっとその種の誘惑にかられました)。リディア・カヴィナと同年に生まれた日本人テルミン奏者で竹内正美さんという方がいらっしゃいます(リディアに師事したそうです。公式HPはこちら)。What's Thereminというコンテンツを開けて読むと、現在入手可能な楽器の種類と連絡先をはじめ、アンプの選び方についてのアドヴァイスなども読めますから、必見のページでしょう。どうやって楽器の練習をしたらいいんだろうという方のために「Friends of Theremin」というHPを挙げておきましょう(←こちらです)。大阪、豊橋ではすでに練習会が開催されているようですが、引き続いて東京でも「予定されています」と書かれています。一般の人が読めるページと、会員(年会費2500円)にならないと読めないページがあり、練習会の日程等は後者。興味のある方は連絡を取ってみてはいかがでしょう。

少し横道にそれました。ついでにもう少し別のことを書かせていただきましょう。会場では、1000円でプログラムを販売しています。文庫本を一回りか二回り大きくしたサイズで、小冊子2冊と図面1枚のセットです。そのうちで、竹内正美さん監修による「Little Theremin Book」は映画を見終わってから読むとためになります。映画に登場する証言者は、こういう説もあれば別の説もありますなんて言いませんからね。たとえば映画の中では、1938年にテルミン博士は妻ラヴィーナ・ウィリアムスの目の前で拉致されたという証言なのですが、この小冊子では、理由は拉致されたとも、本人が希望したともされているとあって、幅広い見方が必要なのだなと教えられます。証言者の発言をあとで確認するには、もう1冊の小冊子「テルミン スティーヴン・M・マーティン監督作品」がよく、大事にとっておきたい資料となりそうです。映画の感想らしくない文章となりましたが、ご容赦を・・・。


トップページへ
コーヒーブレイクへ
前のページへ
次のページへ