第99回:東京−ベルリン/ベルリン−東京展(森美術館)

久しぶりに森美術館に行ってきました。本展は「日本におけるドイツ年」のさいごを飾るもので、主催者によれば、日本とドイツそれぞれの首都である2つの都市間で、19世紀末から繰り広げられてきた文化・芸術的交流の軌跡をたどる展覧会です。その内容は単に美術にとどまることなく、建築、写真、デザイン、演劇などをも含んで、両都市の歴史を11のセクションに分けて追いかけています。展示の点数、約500点(!!)というから凄いです。

本展の会期は2006年5月7日(日)まで。会期中無休です、嬉しいですね。この美術館は水曜日から月曜日の開館時間が10時00分〜22時00分で、火曜日のみ10:00〜17:00となりますが、5月2日(火)は22:00まで延長して開館します。「グレート」とでも叫びたくなりますね。入館料は一般1,500円。

会場は次のとおり、11のセクションにわかれていました。

1 ベルリン−東京 1880-1914 異国趣味と近代の意識
2 「シュトゥルム木版画展」 東京 1914年 前衛の衝撃
3 東京−ベルリン 1912-1923 美術と建築の新しいヴィジョン
4 衝突する文化 1918-1925 ベルリン・ダダ、東京の「マヴォ」とロシア革命の影響
5 モガとモボ 1920年代のベルリンと東京のモダンガール、モダンボーイ
6 「独逸国際移動写真展」 1929-1931 写真の新たなアプローチ
7 バウハウスとブルーノ・タウト 1930年代の建築とデザイン
8 暗黒の時代 1931-1945 独裁制、抵抗、戦争
9 復興の時代 1945-1950年代
10 フルクサス、ポップアートと新表現主義 1960年代の前衛芸術
11 ベルリンの今 壁崩壊後の現代美術


第1セクションでは日本人洋画家たちの作品、たとえば白瀧幾之助の《稽古》(1897年)や赤松麟作の《夜汽車》(1901年)などに久しぶりに出会いました。と同時に、ヘルマン・エンデ&ヴィルヘルム・ベックマンによる日本に建てる建築物の図面の数々、ゲオルク・タッペルトの絵画《芸者レビュー》(1911年)などもあり、こうやって見せられると東京とベルリン、明治期から相互に関心を持ち合っていたことが示されていました。

第2セクションは1914年に東京の日比谷美術館で行なわれた「シュトゥルム木版画展」の規模を縮小した再現。展示されたオスカー・ココシュカ、フランツ・マルク、ヴィルヘルム・モルクナー、マックス・ベヒシュタインらの木版画を見ていると力感にあふれ、テーマの扱いにひねりがきいていたりもしました。ちなみにベルリンのシュトゥルム画廊から日本に木版画を預かってきたのは、ベルリンに留学してデザインを勉強していた斎藤佳三(← この人は作曲もしました)と山田耕筰(当時は耕作と書いていました)でしたが、当時この展覧会を見た人たちがどんなショックを受けたかを知りたくなるようなインパクトをもった作品が並んでいました。

第3セクションでは日本でも有名なブルーノ・タウトほかのベルリンの前衛建築家たちの建築物の写真、それとならんで日本の新しい潮流を生み出した建築家たちの建築物の写真が見られます。さらに萬鐵五郎などドイツの表現主義から影響を受けた画家の作品も見られます。

第4セクションでは、ロシア・アヴァンギャルドが東京とベルリンにほぼ同時期に紹介されたことなどがわかります。それとは別に、ここではジョージ・グロスの作品を見たり、村山知義の作品を見たりできることが主となります。村山はその名前だけは以前から文献で読んできましたが、こうして作品に触れる機会が私はほとんどなかったように思うので、いい機会になりました。

第5セクションの冒頭を飾る絵画は古賀春江の《窓外の化粧》(1930年)。もろもろの絵画や写真が展示されていて、セクションのタイトルどおりの内容なのですが、私の眼に留まったのは濱谷浩の《東京赤坂 フロリダダンスホール》(1935年)と師岡宏次の《日劇のラインダンス》(1936年)という2つの写真。ダンスホールのほうは日本のタンゴの歴史を語るときに落とせない場所らしく、写真で見るとダンスの服装に身を固めた男女が踊っています。日劇のほうはご存知のとおり。

こんな調子で展示がつづくのですが、東京が江戸の香りの残る明治の時代からモダニズムの時代まで、欧米の影響(具体的に本展ではベルリンのそれ)を受けながら発展してきた様子が見事に描き出されているように見て取れました。とりわけ第2セクションと第3セクションを見ることができたのは収穫でした。そのうえで第4セクション以降へ歩みを進めるのとそうでないのとでは、東京がベルリンから受けた刺激や影響の大きさや深さを充分に理解できるかどうかわからないと思えたからです。一方、ベルリンが東京から受けた影響や刺激って何なのだろうと考えると、まあ異国情緒が美術作品に表れたりしているものもありましたけれど、私は充分な理解をできないまま帰ってきてしまいました。

いろいろ書きましたが、とても興味の尽きない展覧会でした。
【2006年4月15日】


トップページへ
展覧会の絵へ
前のページへ
次のページへ