第94回: ギュスタヴ・モロー展(ザ・ミュージアム)

8月には2つの展覧会を見て回りました。そのなかから、今回ご紹介するのは19世紀末のパリで耽美的な絵画世界を描いてみせたギュスタヴ・モローの展覧会です。フランス国立ギュスタヴ・モロー美術館所蔵品から油彩、水彩、素描など全279点が来るのですから楽しみです。会期は10月23日(日)までで、休館日は9月12日(月)の一日。ザ・ミュージアムで行われる展覧会は会期中無休ということが多いのですが、今回は水彩と素描を展示替えするとのことで、休館日はその作業のため設けられたものです。というわけで正確にいうと、9月11日までの展覧会の前半は168点が、9月13日以降の後半は160点が出品されます(油彩48点と扇1点は会期を通してずっと展示されるとのことです)。そう、入館料は当日(一般)が1300円となります。

今回の展示方法は、一つの主題や作品に対してモローがたくさんの作品を残したことから、テーマ別となっています。テーマを羅列すると次のとおりです。

1.プロローグ
2.神々の世界
3.英雄たちの世界
4.詩人たちの世界
5.魅惑の女たち、キマイラたち
6.サロメ
7.聖書の世界
8.エピローグ


以前、日本でモロー展が開かれたのは1995年だといいますが、この時は行かずじまいでしたので、モローをまとめて見るのは今回が初めてになります。とはいえ、サロメのセクションに展示されている有名な《出現》などは、別の展覧会で見た覚えがあるのですね。

調べてみると、アメリカのハーバード大学にあるフォッグ美術館所蔵の《出現》を見ていたのです。さらに調べると、ルーヴル美術館にも《出現》が所蔵されています。3点はよく似ていますが、完全に同じ構図ではなくモロー美術館のものだけは、野球の右バッターがバッターボックスに入ったときのような足の位置で描かれています。他の2つは右足が前にきて、左足が後ろにクロスするようになっているなどの違いが見てとれます( http://www.salvastyle.com/menu_symbolism/moreau.html を参照してください、よくわかりますよ)。今回展示されている《出現》も細かいところまできっちりと描かれ、彩色もあざやか。それになによりもサロメの均整のとれた容姿に目を惹かれます。ただ、なんというか妖艶さはあまり感じないのです。この点は、サロメのセクションに展示された他の作品にも共通して感じたことでした。私は、サロメが若い女性(10代後半か?)として登場することに関係するのかと漠然と考えていましたが、会場を見て歩くと必ずしもサロメだけでなく、「魅惑の女たち、キマイラたち」のセクションに登場する女たちにも同様のことがいえそうな気がしながら見ました。

ついサロメがわかりやすいので、そちらを例にとって書いてしまうのですが、今回の展示には、ヘロデ王の前で踊るサロメや刎ねたヨハネの首をもつサロメなどなど多くの作品があるのですが、それぞれの絵がどうかという前にごく平凡にこうした物語が「道徳的」かどうかと自問すると、それは頷けません。しかし、いわば反道徳的な内容をもつ絵が色気は抑え気味に描かれて、しかも美しい仕上がりになっているわけですから、作品にじっと見入りながら、作品の持つ意味を考えさせられたといえばよいでしょうか(残念ながら、そう簡単に答えはみつかりませんでしたけれど・・・)。

ほかにどんな作品が来ているか、油彩の作品からいくつか拾ってみると次のようになります。

《エウロペ》(1868年 油彩・キャンヴァス )・・・<神々の世界>より
《ヘラクレスとレルネのヒュドラ》(油彩・キャンヴァス)・・・<英雄たちの世界>より
《旅する詩人》(1891年頃 油彩・キャンヴァス)・・・<詩人たちの世界> より
《一角獣》(1885年頃 油彩・キャンヴァス)・・・ <魅惑の女たち、キマイラたち>より
《出現》(1876年 頃油彩・キャンヴァス)・・・<サロメ>より
《聖セバスティアヌス》(1875年頃 油彩・キャンヴァス)・・・<聖書の世界>より

不思議な魅力をもったモローの作品をテーマ別に見ることができるいい機会です。
【2005年8月23日】



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