第93回:ドレスデン国立美術館展(国立西洋美術館)

標記展覧会へ行ってきました。何を見たかったのかというと、フェルメールの絵画1点。ほかにも面白そうなものはありましたが、とりあえず、その1点が見られればいいと思って出かけたのです。その目的は達成できましたが、のみならずドレスデンという街の歴史の重みもあわせて見せつけられて帰ってきました。

さて本展についての情報について触れておきましょう。会期は9月19日(月)までで、休館日は月曜日。ただし、8月15日と9月19日は開館します。観覧料は当日(一般)が1400円。少しお得な前売りはすでに終了していますが、国立西洋美術館のサイト( http://www.nmwa.go.jp/index-j.html )の「NEWS」欄を開けると、本展の割引引換券がプリントアウトできるようになっています。たとえば一般の観覧料ならば100円安くなります。

そして会場全体は

T. ドレスデンの「美術収集室」
U. オスマン帝国 − 恐怖と魅惑
V. イタリア − 芸術の理想像
W. フランス − 国家の表象と宮廷文化
X. 東アジア − 驚嘆すべき別世界
Y. オランダ − 作られた現実
Z. ロマン主義的世界観


という7つのセクションから構成されていました。意外なことに、さいしょのセクションは美術品の展示コーナーではありませんでした。初めて見る大きな「集光鏡」(18世紀の製作品)や地球儀、天球儀、さらに定規、コンパス、ナイフ、時計の類など、要するに科学観察に使うもろもろの道具類が展示されていたのです。為政者が科学的なものの見方を尊重したらしく、こうした品々が多く残されたようです。それが美術品とどうかかわってくるかは、この場ですぐにはわかりませんでしたが、のちのセクションで一部理解できました。

第2のセクションも、美術とは少し違った観点で印象に残りました。オスマン・トルコの兵士たちが身につけた武具の類が展示されていて、不遜な言い方で恐縮ですが、それらがファッション性に富んでいてカッコよく見えることは驚きでした(しかも機能性も備えているのでしょうから)。この地では、トルコの脅威を感じる一方でその文化に魅せられてもいたらしいのです。もしかすると何種類か展示されていた「ウィーン開放メダル」の類には、そうした意味合いが込められていたのかもしれませんが、なぜメダルなどが展示されているのだろうと思いつつも、あまり深く考えないで先を急いでしまいました。しかし、先へ進んでも本展で示されたオスマン帝国がドレスデンに与えた影響の大きさは、幾度となく感じました。

第3から第6セクションまではイタリア、フランス、東アジア、オランダ各国の絵画や陶器などの美術品が展示されていました。イタリアではティツィアーノの《白いドレスの女性の肖像》(1555年頃)に惹かれましたが、一方久しぶりにカナレットの絵を見ることもできました。18世紀に都市の景観図を書いたことで有名な画家ですが、本展でも数点見ることができます。また、現実には存在しない風景を描いた「カプリッチョ」と呼ばれる作品をいくつか見ることもできました。カナレットの甥っ子でやはり画家のベルナルト・ペロットの作品も見応えがありました。フランスのセクションは絵画中心ではないので、音声ガイドを聴きながら流してしまいました。東アジアも絵画ではないのですが、たとえば日本や中国の陶器をあのマイセンが模したり、やがてマイセン独自の味を加えたりしていった様は実に興味深く見ることができました。予期しないで行ったのですが、かなり大きな収穫だったような気がします。また、第1セクションで展示されていた集光鏡はマイセンの陶器の発達に役立ったことを知ることができました。さいごのロマン主義的世界観というセクションは、主に19世紀に描かれた絵画作品が多く展示されていました。

6番目のセクション、オランダを飛ばしてしまいましたが、待望のフェルメールの作品《窓辺で手紙を読む若い女》(1659年頃)をゆっくりと見ました。よく見ると、少し不思議な作品のようにもみえます。縦長の作品で、窓辺で若い女が手紙を読んでいます。描かれているのは横顔ですが、窓に反射した顔がぼんやりと見えます。どんな内容の手紙を読んでいるのだろうかという疑問をもたせます。そして画面手前の右側に室内のカーテンが寄せられているのが見てとれます。静かな絵ですが、この絵画が劇場のステージのように思われ、作品のなかにドラマがあるように感じられたのでした。何というか、カーテンが劇場の幕のようにステージと観客席を分ける役割を負っているような気がすると思えたほどでした。
【2005年7月19日】



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