第80回 : モダンってなに? 〜 MoMA ニューヨーク近代美術館展(森美術館)

六本木ヒルズのなかに森美術館が誕生しました。美術館は、この建物の52階と53階にあり、本展は53階のフロア全体(かなり広い)をつかって開催されています。会期は、すでに4月28日にスタートしていて、8月1日(日)まで。けっこう残り少なくなってしまいました。会期中無休でやっています。入館料は一般 1,500円です。

では、まず会場内部の構成からご紹介しましょう。

  第1部 根源に戻って
  第2部 純粋さを求めて
  第3部 日常性の中で
  第4部 変化に向かって


「第1部 根源に戻って」は、1880年−1920年にかけて不安、孤独、性愛、死などを主なテーマにした作品を展示して見せ、くわえて同様のテーマで1940年代以降(なんと90年代にいたるまで)に制作された作品を展示しているのです。第1部では作品の主題の継続性がずっと後まである、ということになります。もしもテーマに掲げたキーワードから、暗い色彩や表情をもった作品を連想する方がいらしたら、ちょっと違います。色彩の点では、黒を多用したゴーギャンやムンクの版画などがあるかと思えば、イタリア未来派の運動をはじめたジャコモ・バッラの《街灯》(1909年。油彩/カンヴァス)のようにキラキラとした光の運動が絵画にされたものも見あたります。また、オディロン・ルドンの《沈黙》(1911年。油彩/紙)などは、画面の登場人物に諦念とも受け取れる表情が見てとれます。このように、多彩な作品が見られます。

「第2部 純粋さを求めて」は1910年ころに始まった、西洋絵画における抽象的な視覚表現の実例を集めています。●や▲や■が主役に躍り出た絵画たちがたくさんあるわけですが、ロシア・アヴァンギャルドの画家たちの石版やポスターなども、ここで紹介されています。とりわけカジミール・マレーヴィチの《シュプレマティズム絵画》(1916−17年。油彩/カンヴァス)などは軽やかさが感じられて好感がもてました。イヴ・クラインの《青のモノクローム》(1961年。顔料、合成ポリマー、綿布、合板)は、縦長の、それこそ青一色の作品なのですが、図録では本物の良さというか面白さが伝わってきませんから、興味のある方は実物をご覧になることをお奨めします。実物は距離を置いてみると、たしかにのっぺりとした感じに見えましたが、近づいてみると表面にざらざら感が見てとれるのです。見ることじたいに面白みを覚えて、近づいたり離れたりしてみるとけっこう親近感が湧いてくるから不思議です。

「第3部 日常性の中で」。第2部の抽象画の世界は、画家にたとえ宗教的感情があってそれが作品に反映している場合もあれば、そうでない場合もあるのでしょうが、きわめて個人的で感情的な表現だと受け取られる面があったといいます。その反発から自分の周囲の世界に目を向け、急速に発達してきた商業メディアにのせて身近なモノをわかりやすく描写し、大衆に向けて親しみやすい表現を生んでいきました。1950−60年代を皮切りに、と思えばよいでしょう。有名なところではアンディ・ウォーホルやロイ・リキテンスタインらの作品が(当然でしょうが)展示されていました。初めて目にしたなかでは、フェリックス・ゴンザレス=トレスの《無題(USトゥデイ)》(1990年。赤、銀、青のセロファンで包まれたキャンディ(常に補充))という作品(?)です。展示室の三角コーナーにキャンディを積んであるだけのもので、サイズ可変とありますから、会場の都合によって大きくも小さくもできるのでしょう。そして「take one please」と書いてありましたから、ひとついただいてきました。かくして補充が必要となるわけです。ただ、だから何なのか? という点が飴ひとつもらって帰ってきても、いまだわからずです(汗)。

「第4部 変化に向かって」では、見通しが立たないうえに前触れもなく命取りになる病気があらわれたり環境破壊が差し迫るなどの現代生活をうけて、不安定さを反映した作品が展示されている。少し過去にさかのぼると、1930年代のマックス・エルンストやイヴ・タンギー、40年代のミロ、50年代のルネ・マグリットらの作品も展示されているのです。でも、第4部全体の中で彼らの作品を見直してみると、私は、どこか落ち着いた雰囲気を感じるのです。シンディ・シャーマン《無題#188》(1989年。クロモジェニック・カラー・プリント)、ブルース・ナウマン《吊された頭部#2》(1989年。蝋、針金)、ロバート・ゴーバー《無題》(1991年。蝋、布、皮、人髪、木材)になると、見ていてなぜか落ち着きません。無題という作品も実はかなり具体的なかたちを提示していて、そこから暗示されるメッセージが不安定要素のたっぷりつまったものだからです。

六本木の真ん中に、こうした現代美術を中心にした美術館が誕生したことそれじたいは歓迎したいと思います。ですが、実は、この美術館に対して言いたいことがいくつかあるのですよ・・・。おっと、この先は近日中にというとにしましょう。
【2004年7月19日】


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