第77回:栄光のオランダ・フランドル絵画展(東京都美術館)

今年に入って私が行った展覧会は、日本人画家の個展に集中していました。こうしたことは、ちょっと珍しい体験でした。で、ついさいきんも個展ではないのですが、近代日本の絵画を再考してみようという展覧会に足を運んだのですが、これは、もう少し自分なりに頭の中を整理してから感想文をアップしたいと思っています。それとは別に、久しぶりに海外から作品をもってきた展覧会に行きましたので、今回はそちらを取り上げることにしました。

その展覧会というのが標記のそれです。7月4日(日)までが会期で、毎週月曜日が休館日観覧料は一般(当日)が1300円となっており、チケットは会場のほか上野駅の公園口改札を出る手前の窓口でも販売しています。この展覧会は16・17世紀のオランダ・フランドル絵画をとりあげ、その時代に活躍した画家たち、すなわちルーベンス、ファン・ダイク、レンブラント、フェルメールらが描いた絵画作品58点を展示しています。作品数がやや少ないのではないかとも思いますが、そこはウィーン美術史美術館から借り出してきたもので、しかもそのうちの1点はフェルメールの《画家のアトリエ》という作品が含まれているというのですから、ともかく見なくちゃ、と思ったのでした。

会場である東京都美術館は同時にいくつもの展覧会を開催しています。本展覧会の入口を通過するときに、まず展示作品の一覧をもらっておきましょう。入口を通過しても自動的にもらえないときには、「作品の一覧が欲しい」と言うといいですよ。音声ガイドもありました(500円)。さて、会場内部の展示は

   T.16世紀のネーデルラント絵画
   U.17世紀のフランドル絵画
   V.17世紀のオランダ絵画


という、時代と地域による3つのセクションに分けられていました。個人的には、後にいくほど、興味深い作品が多くなりましたね。以下、印象に残った作品をいくつか挙げてみましょう。

会場のラストを飾っていたのがフェルメールの《画家のアトリエ(絵画芸術)》(1665/66年頃)。縦長の画面奥手に、右手にバロック・トランペットを持、左手に大きな本を抱えた女性がモデルとなって経っています。その手前に、見る者に背を向けた画家がその女性の頭部を描いている、そんな絵なのです。画面左側に描かれたカーテンが、あたかも幕を手でひいて開けるときのようにまくれていて、見る者を画面に集中させる、そんな作用をしているかのような気さえしました。これは、確かに圧巻でした。

ヤン・ステーンの手になる《農民の結婚式(騙された花婿》(1670年頃)は、皮肉とユーモアがたっぷり詰まった作品でした。老人の男が若い花嫁を迎えたその日、来客でにぎわっているなか、新郎は新婦を部屋に誘っています。よく見ると、実は新郎の後方でサインを送っている男が一人描かれています。ちょっと恥じらうようなそぶりに見える花嫁の姿は、種を明かせば、すでに新郎とは別の男の子が宿っているのだそうで・・・。道徳的な意味での善悪をちょっと横に置いて考えると、その発想が自由で面白いと思います。風景画もいくつかありました。ここではヤーコプ・ファン・ライスダールの《渓流の風景》(1670/80年頃)を挙げるにとどめておきましょう。ここまでは「V.17世紀のオランダ絵画」から選りすぐった作品です。

こんな作品もありました。ダーフィット・テニールス(子)が描いた(一対の絵画)《農民の結婚式(農民の喜び)》(1648年頃)と《村への襲撃(農民の苦しみ)》)(1648年頃)です。制作年代を見てください。ちょうどヨーロッパでつづいた30年戦争が終わった年ですよね。人は時代や身分を選んで生まれてくることができませんから、こうしたすさんだ時代でも生きていかなければなりません。そんな時代の農民の喜び(結婚式)と苦しみ(兵士による強盗など)を描いたものです。この画家が自発的に描いたのでしょうか?

もうひとつ、ルーベンス周辺の画家が描いた《獅子の洞窟にいるダニエル》(制作年不詳)も面白かったですね。預言者ダニエルは、彼をねたむベルシャザール王の家来によって無実の罪を着せられ、獅子がいる洞窟に閉じこめられてしまいますが、神によって救われ、かわりに邪悪な心を持つ家来たちが洞窟に入れられるという物語に取材しています。絵は、タイトルにもあるように、獅子に囲まれて洞窟の中にいるダニエルが描かれているのです。どこかユーモラスですらあると思いました。中世の典礼劇《ダニエル劇》を思い出しながら見てしまいました。ここまでは「U.17世紀のフランドル絵画」から選びました。

「T.16世紀のネーデルラント絵画」から取るとすれば、ぺーテル・ブリューゲルの次男ヤン・ブリューゲル(父)の《小さい花卉図》(1607年頃)でしょうか。実際には咲く季節が異なる花々がひとつの花瓶に収まっているという作品なのですが、絵そのものの華やかさに惹かれました。

ウィーン美術史美術館からは、2002年秋に東京藝術大学大学美術館に作品を借りてきて展示したことがありましたが、今回のはまたひと味違う面白さがありました。

【2004年5月10日】



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