第71回 : レンブラントとレンブラント派 〜 聖書、神話、物語 (国立西洋美術館)

現在、東京・上野で行なわれている展覧会を二つ観てきました。今回は、そのうちの一つ、国立西洋美術館で開催中の「レンブラントとレンブラント派 −− 聖書、神話、物語」をとりあげます。会期は12月14日(日)までで、毎週月曜日が休館日となります(ただし、11月24日は開館となりますので、翌25日の火曜日が休館です)。入館料は一般(当日)で1300円です。私は例によって音声ガイド(500円)を借り、図録とは別に100円で販売されている小冊子(作品の主題を中心に解説した鑑賞の手引き)を買い、会場へ入りました。

さて、その会場の構成です。次のように展示されていました。

T.前レンブラント派
U.レンブラント[1]絵画
V.レンブラント[2]版画
W.レンブラント派[1]
X.レンブラント派[2]
Y.レンブラント派[3]
Z.レンブラント派[4]

本展の趣旨を主催者の弁を借りながらまとめておきましょう。レンブラントが活躍した17世紀のオランダは、風景画、風俗画、あるいは静物画などの自然主義的な題材を扱う絵が隆盛をほこっていました。しかしレンブラントは、ごく少数の例外を除いて、これらの種類の絵画を描いたわけではないのです。肖像画はそれなりに数を残しているのですが、終生の課題として取り組んだのは物語画だったのです。つまり、聖書や神話などに由来する主題をもつ作品ですね。ここまでは主催者の弁。17世紀のオランダ絵画というと、風景画と商人などの肖像画を思い浮かべてしまう私にとっては、のっけから「あれ、そうだっけ?」。主催者は、物語画家を選択し名声を得たレンブラントとその時代の接点を探りながら、レンブラントと17世紀オランダ絵画について新たな光を当てようというのです。なるほど、私の乏しい経験から言えば、物語画に焦点を当てて17世紀オランダの絵画を見せようとする展覧会は初めてだったように思いますが、なにぶん、昔からこまめに展覧会を漁ってきたわけではないので正しいかどうかは別です、念のため。

そして手始めに、前レンブラント派と名付けて弟子入りしたピーテル・ラストマンやヤン・ピナスらの作品を展示したセクションが設けられています。ラストマンの《ルツとナオミ》(1614年)や《キリストの磔刑》(1616年)などの物語画があるのです。次いでレンブラントの絵画です。これまで私は、レンブラントが描いた肖像画を見る機会が何回かありました。もしかすると、物語画もあったかもしれませんが、少なくとも記憶に鮮明に残っているわけではありません。今回は《悲嘆にくれる預言者エレミヤ》(1630年)、《スザンナと長老たち》(1636年)、《聖ペテロの否認》(1660年)などが見られます。さらに、従来レンブラントの作とされてきたものが、実は工房の弟子たちによって描かれたものであることがわかり、《ダニエルの幻視》(1650年頃)、《聖家族》(制作年不祥?)、《黄金の兜の男(マルス)》(1650年頃)、《ヨセフを訴えるポテパルの妻》(1655年)がレンブラント工房の作品として展示されていました。レンブラントの場合、工房という意味は、特定の弟子の誰か一人なのですが特定できないので、こういう呼び方にしてあるようでした。作品の帰属を特定する難しさが示されているように思いましたが、興味深かったのは《ヨセフ〜》で、これは構図がよく似ているレンブラント自身の作品と並べて展示されていました。版画については省略して先をいそぎます(ご勘弁を)。

レンブラント工房に属する弟子たちは13人を数えます。ヤン・リーフェンス、ヘーラルト・ダウ、ホーファールト・フリンク、フェルディナント・ボル、ヤン・フィクトルス、ヘルブラント・ファン・デン・エークハウト、カレル・ファブリティウス、バーレント・ファブリティウス、サミュエル・ファン・ホーホストラーテン、コンスタンティン・ファン・レネッセ、ウィレム・ドロスト、ニコラース・マース、アールト・ヘルデルが弟子たちです。第4セクション以降は、彼らの作品が見られるわけですが、レンブラント工房時代は、師匠の影響が強く、黒と白の強烈なコントラストなど共通する点が認められるのですが、工房を独立したあとは、物語画は描きながらも、みな師レンブラントの作風から大きく離れていく軌跡が認められます。

本展は興味深い試みですが、聖書や神話に馴染みの薄い私にとっては、描かれている絵の意味を理解するのに少々骨が折れたことも付け加えておきたいと思います。

【2003年11月24日記】



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