第68回 : ミレー3大名画展 〜 ヨーロッパ自然主義の画家たち 〜 (ザ・ミュージアム)

いま渋谷のザ・ミュージアムで標記展覧会が開かれています。4月10日(木)からスタートしたのですが、会期は7月13日(日)までと長いです。私は、実は連休を利用して見てきましたが、チケット売場は長蛇の列ができていました。会場の中も、かなり混雑していました。《晩鐘》《落穂拾い》《羊飼いの少女》というミレーの3大名画と呼ばれる作品が日本で一堂に会するというのですから、当然といえば当然なのでしょう。残念なことに《晩鐘》は痛みが激しく、今後フランス国外への貸出しがとても難しくなると予想されているのだそうで、こうして3点揃って見られるのは、少なくとも日本では最初で最後だろうと主催者は予想していました。で、会期中無休で、入館料は一般(当日)1300円也です。

この展覧会はパリのオルセー美術館と共同企画したもので、19世紀ヨーロッパの自然主義絵画の系譜をまとめてドンと見せようという狙いが込められていました。ですから、ミレーもバルビゾン派という位置づけを一度離れて自然主義絵画の創始者という観点から見直し、同様にゴッホ、ゴーギャン、ピカソ、ピサロらの作品(多くはミレーからの影響を受けているといいます)も同様の切り口から見ていこうとしています。こうした試みじたい「世界初」だと主催者は胸を張って宣言しています。そう、全部で73点の作品が並べられていました。

会場の構成を見ておきましょう。

第1部 ミレーと写実主義の画家たち
 1. ミレー、クールベ、ブルトンと写実主義の画家たち(32点)
 2. ミレー、クールベ、ブルトンの後継者たち(10点)
第2部 バスティアン=ルパージュと19世紀末の自然主義(18点)
第3部 自然主義と近代絵画(13点)


ミレーの作品は、第1部の1で20点もまとめて見ることができます。このことじたい、なかなか体験できないのではないかと思われますが、くわえて3大名画が含まれています。会場内は、このあたりがえらく混雑していました。まあ、しかたないと腹をくくって出かけましょう。この3点を見るだけでも、たしかに価値はありますから。でもミレーだけでなく、ほかの作家の作品にも興味深いものがあると思いました。たとえばシャルル=フランソワ・ドービニーの《ブルゴーニュ地方のぶどうの収穫》(1863年)という大きな横長の絵画の前では、画面の前半分にぶどう畑(といっても、私には、さほど大規模なぶどう園に見えないのですけれど・・・)が描かれていて、収穫している人間と動物などがいます。画面後方には田園風景が広がっているという、ただそれだけの内容なのですが、私は思わず立ち止まってゆっくり作品を見てしまいました。作品の感じ方は人それぞれだと思いますが、ミレーだけにこだわらずに作品を見ていくと、きっといいなと思える作品がいくつも見出せるのでは、という気がします。

この展覧会の魅力は、当時絵画として価値が高いとされていた神々や英雄をテーマに取り上げた美術作品ではなく、名もない人間をいわば主人公にすえて、そのさまざまな生き方を描き出した作品がずらりと並べられていることにあると思いながら見て歩きました。よく考えてみると、こうした描写は、たとえばピカソやゴッホにいたっても受け継がれ、貧しい人間や畑で働く人間が描かれたという作品の実例を思い起こすことができます。だから、といっていいのでしょう、第3部ではピサロ、ゴーギャン、ゴッホ、ピカソらの写実主義の系列に連なる作品が展示されていました。ピカソが13歳のときに描いたという《年老いた漁師(サルメロンの肖像)》(1895年)など、これが少年の描いた絵かと眼を丸くして腰を抜かすかと思ったほどの作品でした。

私は、この展覧会は企画意図が生かされていると考えながら帰途に着きました。
【2003年5月9日】


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