第63回 : ウィンスロップ・コレクション展(国立西洋美術館)

上野の国立西洋美術館で、9月14日(土)からスタートした標記の展覧会は会期が12月8日(日)までで、けっこう長い期間にわたって見ることができます。休館日は月曜日なのですが、10月14日(月)と11月4日(月)は開館し翌日の火曜日休館となります。観覧料は一般1300円(当日)となっています。

今回はアメリカのハーヴァード大学にあるフォッグ美術館が所蔵するコレクションから油彩画や水彩画など86点が来ています。展覧会のサブタイトルも「フォッグ美術館所蔵19世紀イギリス・フランス展」と付けられていて、会場で何回も見かけた作家の名前を挙げておくと、W.ブレイク、バーン=ジョーンズ、ロセッティ、ワッツといったイギリス勢、アングル、G.モローといったフランス勢、こういう人びとでした。ですから、写実主義や印象派とは趣を異にする画家の作品が多く集められていました。従来、このコレクションは館外へ貸し出したことはなかったそうですが、建物の修復を機に東京、ロンドン、ニューヨーク、ワシントンなどを巡回することになったといいます。

会場は次の4つのセクションに分かれていました。
  T.過去と東方
  U.神秘と顕現
  V.誘惑と堕落
  W.象徴と偶像

「T.過去と東方」はギリシャ・ローマの神話に取材した、バーン=ジョーンズの《パーンとプシュケ》(1872−74年)、ワッツの《アリアドネ》(1890年)などがありました。また東方に取材した作品も見られ、私はアングルの《奴隷のいるオダリスク》(1839−40年)の前では、思わずじっくり見入ってしまいました。もう一つ、私にはウィリアム・ホルマン・ハントの《聖なる火の奇蹟: イェルサレムの聖墳墓聖堂》がとても面白かったです。大きな画面には200人以上(もっともっと大勢かも)の人間が描かれていて、画面右奥に松明をもった僧侶が入場するところです。描かれた人々は、それぞれに声を出したり、人を見たりしていて、まさにこれから騒然とするであろう予感をもたせる絵画でした。

「U.神秘と顕現」には、G..モローの《出現》(1876年ごろ)があります。作品に登場するのは、サロメとヨハネの首。首は画面中央辺りに光を放って宙に浮いているのです。それをサロメが指差しているのです。華やかさもあります。私は何という発想だろうと驚きました。しかし、あとでものの本をひもとくと、ルドンが描いた木炭と黒チョークによる《出現》(1863年)という作品があることを知りました。モローの作品よりもずっとおとなしい、そして冴えない印象を受ける作品ですが、画面左手にサロメが立ち画面中央あたりにヨハネの首が浮いているのです。両者は、かなり異なる印象を与えてくれますが、宙に浮いた首なんて考えもしませんでした。スゴイ! 

ほかにロセッティの《祝福されし乙女》(1875−78年)を見たときに「おっ?」と思いました。ロセッティ自身が若い頃に書いた詩を晩年になって絵画化したというわけです。画面上部に天国に召された乙女がいて、地上の恋人が来るのを待ちわびているという内容の絵ですね。音楽では、ドビュッシーの作品に《選ばれし乙女》(1893年)がありますが、奇しくもロセッティの同じ詩をもとに作曲しました。それを思い出しながら、見ることができました。ロセッティの作品に、これだけ興味をもって接したのは初めてでした。

このほか「V.誘惑と堕落」「W.象徴と偶像」も、神話や聖書に取材した作品が多く見られ、先ほど挙げた作家たちを中心に、楽しむことができました。
【2002年9月24日】


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