第60回 : コロー、ミレー、バルビゾンの巨匠たち展(損保ジャパン東郷青児美術館)

コロー、ミレー、バルビゾンの画家たちといったあたりが、この「展覧会の絵」に登場するのは確か初めてですね。別に嫌いというわけではありませんが、大好きというわけでもないので、こういう結果になったのだろうと思います。しかしせっかくの機会です。美術館に足を運びました。さて、従来から東郷青児の名を冠した美術館はありました。「安田火災東郷青児美術館」がそれです。ご承知のように、さる7月1日をもって安田火災と日産火災の両者が合併し損保ジャパンを名乗るようになりました。美術館もそれにともなって、「損保ジャパン東郷青児美術館」と名称変更をしたわけです。場所も新宿の従来からの場所にあります。

この展覧会の会期は、すでに8月1日(木)からスタートしていて9月16日(月)まで。休館日は毎週月曜日ですが、9月16日は祝日ですからね、やるようです。入館料は一般1000円となっています。

ところで本展ですが、姫路在住の実業家で中村武夫さんという方が幼少のころ見たミレーの《晩鐘》の複製画をきっかけに、美術収集を志したというのです。かくいう私も小学校の低学年のころ、親が買ってきた(?)《晩鐘》と《落穂ひろい》の(たぶん安い)複製画が、狭い家ながら額に入れて飾ってあったのを思い出します。私なぞ、《晩鐘》を見ても「このおじさんとおばさんは何をやっているの?」「どうして、拝んでいるの?」と尋ねるような子どもでしたので、美術収集の道とは思いもつきませんでした。で、中村さんという方に話を戻しますが、バルビゾン派の収集は31作家の103点を数えるにいたったというのです。すごいです。このコレクションは1999年、姫路市立美術館で約100点が展示されましたが、今回はその後中村コレクションに加えられた数点とともに姫路以後の初公開となるといいます。そうした意味では、貴重な機会だといえるでしょう。

会場の構成は、ごく大まかに言えば、<1>コローの油彩画<2>ミレーの作品<3>バルビゾン村で作品を残した画家たちと分かれています(本当は、もっと細分されていますけれど)。

コローの絵は、画面全体が柔らかくかすんだような色づかいが見られ、風景全体もソフトな印象を受けます。ところが、「風景画」とよびたくなる作品のいずれにも、どこかに必ず人物が配置されています。10数点見ていくうちに、純粋な風景画に出会えないストレスのようなものが溜まってきました。しかし、これは19世紀フランスの美術界にあった、歴史画や神話画は高貴なジャンルだが、肖像画や風景画は低俗であるとする価値観によっていて、コローにしてみれば仕方なかったというわけです。とりわけ風景だけというのは価値が低いとされていたのだそうで、人物を配置することで、補いをつけていたのですね。

ミレーは、どうしても《晩鐘》や《落穂ひろい》などルーヴル美術館が所蔵している代表作が頭に浮かんでしまいます。ほかにもいくつか作品は見ているはずなのですが、どうしても他の作品を思い出せません。でも今回展示されていた《井戸から戻る女》は、家族の食事を作るための労働として描かれており、先に挙げた2つの作品とは違う意味をもった作品として記憶に残りそうです。

その他の作家としては、テオドール・ルソー、コンスタン・トロワイヨン、シャルル=エミール・ジャック、ジュル・デュプレ、シャルル=フランソワ・ドービニーなどなど枚挙にいとまがありません。あのクールベだって展示されていたのですからね。どの作家も、バルビゾンにおける自然と人間の交わりを描いていますが、これだけたくさん見ると、もうちょっとユニークな視点とか作風って出てこないものなのだろうか? と首を傾げたくなりました。・・・なんて思ったままを書いてしまいましたが、これだけのコレクションを見る機会は滅多にないだろうと思いますので一見の価値ありです。
【2002年8月10日】


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