第55回 : プラド美術館展(国立西洋美術館)

すでに3月5日(火)から始まっている本展覧会は、6月16日(日)までの長い期間、開催されています。休館日は毎週月曜日と5月7日(火)ですが、あいだに挟まれるゴールデン・ウィーク(4月27日〜5月6日)の期間は曜日にかかわらず無休で行なわれるそうです。観覧料は一般(当日)で1300円でした(前売りは終了しています)。

今回はプラド美術館から、ベラスケス(5作品)、ゴヤ(6作品)、エル・グレコ、スルバラン、ムリーリョ、ティツィアーノ、ティントレット、ルーベンスなど47作家77作品が来ています。でもプラド美術館といえば、ゴヤの≪着衣のマハ≫とか≪裸体のマハ≫(これらは1970年台の始めころ国立西洋美術館に来ています)、ベラスケスの≪女官たち≫、ルーベンスの≪三美神≫などの超有名な作品を収蔵しています(ちくま学芸文庫から出ているエウヘーニオ・ドールス『プラド美術館の三時間』などで知ることができるでしょう)が、そうした作品は来ていません(ちょっと残念・・・)。

会場の内部は、6つのセクションによって構成されていました。

  T.スペイン・ハプスブルク家の宮廷肖像
  U.スペイン王室のイタリア・フランドル絵画
  V.黄金時代の信仰と絵画
  W.黄金時代の肖像画と静物画
  X.ブルボン家の宮廷画家ゴヤ
  Y.19世紀のスペイン絵画


「T.スペイン・ハプスブルク家の宮廷肖像」には、ベラスケス作の≪フェリペ4世≫(1625−28年)の肖像画をはじめ、7点の作品が展示されていました。この肖像画は、王の長い顔と真っ赤なタラコ唇が印象的で、ときどき書物などに出てくる(と思います・・・)ので、「あ〜あ」と思い当たる方もいらっしゃるでしょう。彼らこそ、現在のプラド美術館の始めのコレクションを形成した人たちだったといいます。

それをもっと具体的にしたのが「U.スペイン王室のイタリア・フランドル絵画」のセクションでした。お雇い画家を国外に出し、ティツィアーノ、ティントレット、ルーベンス、ヤン・ブリューゲル、ヨルダーンスなどの作品を集めさせてきたのです。このセクションの作品のテーマは、宗教的な題材(たとえばティツィアーノ≪スペインに救済される宗教≫)もあれば、神話のそれもあります(たとえばルーベンス≪わが子を喰らうサトゥルヌス≫)。もっと世俗的な題材(ブリューゲル≪田舎の婚礼≫)もあれば、宮廷肖像(たとえばスナイエルス≪フェリペ4世の狩猟≫)もあるといった具合で多彩です。しかし、国家と宗教の強い結びつきや宮廷肖像の存在などからは、王室のための美術が見え隠れするようです。

「V.黄金時代の信仰と絵画」のセクションでは、個人的にはエル・グレコの≪聖アンナと聖ヨハネのいる聖家族≫(1595−1600年)、≪洗礼者ヨハネと福音書書記者ヨハネ≫(1600−1607年)、≪聖フランチェスコ≫(1604−1614年)が印象に残ります。ほかにもリベーラ、スルバラン、ムリーリョなどの作品が見られます。同じ時代の「W.黄金時代の肖像画と静物画」のセクションからは、ベラスケスの≪セバスティアン・デ・モーラ≫の1点だけを挙げておきましょう。このモデルは宮廷の道化師が素顔でいるところで、唇をきっちりと結んでしっかり正面を見据える姿が、なんの媚びへつらいもなくて良いのです。こういう人たちをも描いていたのですね、ベラスケスは・・・。

さてフェリペ5世(1683-1746年)によって、スペインにブルボン家が誕生し、ゴヤはその宮廷画家になります。「X.ブルボン家の宮廷画家ゴヤ」がその時期を扱っています。ゴヤは単に宮廷画家であったわけではなく、後年、その枠を破る制作を続けました。今回の作品の中では、1808年頃に完成した≪巨人≫が、いろいろな意味に取れて面白かったですね。「Y.19世紀のスペイン絵画」は、流すように見ました。

音声ガイドを用いて会場を歩きましたが、それでも1時間ちょっとで回れました。静物画にたいして興味を示さずにサッと見たこと、最終セクションも適度に流すように見たせいかもしれません。今回、第Tセクションと第Uセクションを見て感じたことがあります。それは美術が王室自身の愉しみであったり、その権力の威光を示す道具としてあったのだなと印象付けられたことです。美術に限らないでしょうが、芸術がもつ一つの側面といえるのでしょう。
【2002年4月2日】


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