第53回 : 未完の世紀 ― 20世紀美術がのこすもの(東京国立近代美術館)

東京国立近代美術館がやっと増改築工事を終えました。4階から2階までが収蔵品所蔵ギャラリー(2615u)、1階が企画展ギャラリー(1560u)としてのリニューアルです。4階、3階は、以前は同じ階なのに階段で分かたれていたように思うのですが、今度は地続き(笑)。また、以前は企画展というと1、2階を使っていたものが、スペースが拡がったために1階のみで可能になったとありました(確かに、このことは実感しました)。展示スペース全体は、改築前の1.5倍になったというのですから嬉しいですね。各階に休憩コーナーがあるのですが、今回は時間的な余裕がなくて寄りませんでした。美術館側のPRによれば、大手町方面を一望できる4階休憩コーナーからの眺めは格別だといいます。

今回、リニューアル・オープンを記念して開催されている「未完の世紀 ― 20世紀美術がのこすもの」は、なんと4回から1階までの全展示スペースが使われているのです(順路は4階から1階まで順に下がってきます)。この100年ほどの美術を、8つのテーマによって構成して、日本画・洋画・彫刻・版画・写真・工芸など何と約370点によって振り返ろうという企画です。会期は3月10日(日)までで、休館日は毎週月曜日(ただし2月11日は開館し、翌12日が休館)。観覧料は一般が830円となっています。

はじめにお話しておきますが、実は私、今回はゆとりをもって行こうと思っていながら、実際に美術館に入ったのが午後3時20分頃でした。閉館が午後5時の日でしたから、いくらなんでも370点ほどもある展示を見切れるだろうかと不安がよぎり、休憩コーナーにも寄らなかったわけです。2階の展示スペースを見ていたときに、館内に閉館20分前のコールがあり、でも残るは1階だけさ、と気安く考えたのが間違いでした。1回の展示スペースは2箇所あり、最後のコーナーなど広いのなんのって。最後だけは、ホントに駆け足で見て回りました(トホホ)。

さて、設定された8つのテーマとは次のようなものでした。

第1章 文明と美術  1900年代
第2章 芸術家の近代  1910−1920年代
第3章 都市空間の成立  1920−1930年代
第4章 戦時と「戦後」の美術  1940−1950年代
第5章 文明の反ユートピア  1950年代 
第6章 加速する社会と芸術  1960年代
第7章 人間と物質  1970年代以降
第8章 芸術と歴史  1980年代以降

主催者によれば、展覧会のタイトルにある「未完の世紀」とは、”20世紀はまだ終わっていない”というメッセージを込めているらしいです。まあ、そういう主張はできるでしょうけれど、もっと単純に、これまで2年半もこの美術館でお目にかかれなかった作品の数々に出会える懐かしさを楽しむことができます。くわえて、どの年代も他の機関から作品を借り出して展示してありますから、年代ごとの特徴ともいうべき味わいは増していると思います。考えるのは、これら多数の作品をじっくり見てからで遅くありません。

見られてよかったという作品をいくつか挙げてみましょう。

◆黒田清輝≪湖畔≫(1897年  東京文化財研究所)◆
これは見たいみたいと思いながら、これまで一度も実物を見ないままきた作品です。黒田の≪読書≫と並んで教科書でも見たことのある人も多いと思います。モデル(たしか奥さん)が何と美しく描かれていることか! あ、それから1897年という制作年代ですが、こうした100年を単位とした展覧会では少し前の時期の作品から見せることは、割とあると思います(ほかにもいくつかありました)。
◆満谷国四郎≪戦の話≫(1906年)◆
どこの所蔵かリストにありませんが、制作年代からして日露戦争に出向いた兵隊が帰郷し、家人を相手に手柄話をしている様子にみえました。当時の室内は、現在のように明るい蛍光灯などありませんから、昼とはいえ案外暗く描かれています。今回は出品されていませんが、菱田春草の≪寡婦と孤児≫(1895年)の悲しげな表情とは対照的だと思いましたね。
◆岸田劉生≪道路と土手と塀(切通之写生)≫(1915年 東京国立近代美術館)◆
久しぶりに見た同館所蔵コレクションの作品。シンプルな構成と色使いに勢いを感じることができ、私の好きな絵画作品の一つです。
◆靉光≪眼のある風景≫(1938年 東京国立近代美術館)◆
これも久しぶりに見た同館所蔵コレクションの作品です。いま見ても新しさが感じられる作品で、これも私の好きな絵画作品の一つです。
◆東山魁夷≪道≫(1950年 東京国立近代美術館)◆
縦長の画面の中央に道が一本、その両脇に草の緑が。画面全体はボンヤリした感じの、シンプルながら見入ってしまう作品です。

さいきんの作品にも面白いものがありましたけれど、駆け足で見た悲しさで、リストの作家名と作品名がうまく一致しません(汗)。これではご紹介できませんね・・・。ちなみに、全部見て回るのに1時間30分ではキツかったですよ。途中で休憩など入れるのもお洒落(笑)ですし、たっぷり時間をとって行かれるといいと思います。
【2002年1月29日】


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