第52回 : ウィーン分離派 1898-1918 クリムトからシーレまで(ザ・ミュージアム)

渋谷のザ・ミュージアムは、私の記憶では、毎年1月2日から新たな展覧会を開いていたと思います。今年もその例にもれず、標記の展覧会が2月24日(日)までの会期でスタートしました。この美術館の常で、開催期間中は無休です\(^o^)/ で、入館料は一般が1200円(当日)ですよ。

さて私は、ウィーン分離派という枠組で展覧会を見るのは初めてです。美術における「分離派」を調べてみると、1890年代にドイツ圏の各地に起こった運動で、アカデミーを中心とする既存の展覧会に受け入れられない若い世代の美術家たちが、それまでの体制からの「分離」を目指したものだとまとめることができるようです。具体的には、1892年に設立されたミュンヘン、97年のウィーン、99年のベルリン、そのほかライプツィヒやダルムシュタットなどでも組織が作られたといいます。

ウィーンに話を絞れば、旧来の美術の枠組としては、芸術家会館(1868年創設)を拠点とするウィーン造形芸術家組合(1861年創設)がありました。19世紀の終わりごろに、すでに名声を博していたグスタフ・クリムトは、≪医学≫≪法学≫≪哲学≫などの作品で、アカデミックな教授たちから反感を買い中傷を受けたといいます。その一方、当時すでにウィーンの政治の実験を握っていた自由主義者たちから支持されるといったことがあり、クリムトは、1897年オーストリア造形芸術化協会を創設し、自ら初代会長の座に就きました。これがウィーン分離派の始まりです。「分離派」と名づけられた訳は、先行したミュンヘンの団体に倣ったのだといいます。自国の芸術を変えようという意識で集まったので、芸術表現上の志向は、それぞれ異なっています(とまあ、これは俄か勉強。もう少し続きます・・・)。

本展覧会には、1898年から1918年までに開催された49回の展覧会に出品された作品(絵画、工芸、彫刻、版画など)や、関係するポスター、機関誌など約190点が展示されています。ウィーン分離派は、規約のもとに会員を擁していましたが、誰もが応募できるコンクール展ではなく、必ずしも会員全員の作品が並ぶわけではなかったといいます。ですから、特定の美術家の個展となることもあったわけです。毎年、展示委員が委嘱され、回ごとのテーマを決め、翌年に向けて展覧会の準備をする、そんな仕組になっていたというのです。

会場を入ると、展覧会のポスターがまとめて展示されているコーナーがありました。すべて揃っているわけではありませんが、よく集めたものだと感心しました。記念すべき第1回のポスターはクリムトの手になる作品です。実は、このポスターには「検閲前」と「検閲後」二つの版があり、両方が並べて展示されていたのです。両者とも分離派を象徴するテセウス、旧来のウィーン美術界をあらわす半神半獣のミノタウロス、それに守護神パラス・アテネが登場します。そして画面の上の方で、テセウスがミノタウロスを退治しています。それをパラス・アテネが画面の右側で冷静に見守っているという構図です。前者に登場するテセウスは裸身なのですが、これが検閲に引っかかって、検閲後はテセウスの局部のあたりに樹木が描かれています。このように並べて見せられると、ウィーンの文化統制の実態がどのようなものだったのかという別の興味も湧いてきます。

さて、並べられた作品群を見ながら戸惑ったことが一つありました。ウィーン分離派が対抗しようとした旧来のアカデミズムの作品が私にとっては頭に浮かんでこないのです。ですから、どこが新しいところか、今ひとつピンと来ないまま見てしまいました(嗚呼、情けない・・・)。しかし、椅子やテーブル、戸棚などの家具類なども展示されていて、この辺りが、絵画と彫刻しか認めなかった旧派とは違う点の一つのようです。絵画でも、たとえばカール・モルの≪私の居間≫とフェルディナンド・アンドリの≪バターを売る農婦≫など、描かれる主人公の対照的なこと。前者は、広々として(ごちゃごちゃと家具を並べる必要もない!)明るい居間の一角にある物書き机で、上品な感じのご婦人が何かを書いているシーンが見て取れます。室内は、窓のカーテン越しに差し込む光の具合がピカピカの床の色の変化となって描き出されています。一方、後者は5、6人の農婦が描かれていますが、皆、上着は黒。それだけでも画面にある種の暗さが漂いますが、画面一番手前の老婦の諦念に満ちた顔の表情や、その隣りの若い女性の食い入るような目つきなど、ハッとさせられる作品です。たしかこのニ作品は隣り合わせに展示されていたように記憶します。

今回は、とても多くの作品を「それなりに」楽しんで見たのですが、とはいえ、20世紀に入って登場した表現主義絵画やキュビズムなどのインパクトと比べてしまえば、やはりどうしても印象は薄いのです。でも、これは時代や地域の問題もあるので、無いものねだりなのでしょうね。興味がある方は、ぜひご自分の目で確かめてみると良いと思います。ただ、今回は音声ガイドも用意されていませんし、解説もところどころに付いているだけなので、少々物足りないと思う向きもあるかもしれません。
【2002年1月5日】


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