第51回 : コーポレート・アート展(ザ・ミュージアム)

はじめ「コーポレート・アート展」と聞いたとき、私は、どうせ複数の企業がそれぞれに買い集めた絵画や彫刻を、半ば自慢げに展示するのだろうくらいに思ってしまいました。しかし、よ〜くチラシを読んでみると、今回は吉野石膏が約100年かけて収集したコレクションから、ざっと100点のフランス近代絵画を展示するとありました。フランス近代絵画。これは、吉野石膏が集めてきたヨーロッパ絵画の大きな特徴となっているようです。

展覧会は11月10日(土)から始まっていますが、会期は12月24日(月・振休)までとなります。ザ・ミュージアムのやり方なのでしょうが、会期中無休。それから、金曜・土曜は21:00まで開館(入館は20:30まで)してくれるのも嬉しい限りです。入館料は一般(当日)が1,200円。

会場には音声ガイドも用意されていましたが、説明のつく作品の一覧表が回収されてしまう(さいきん、時々この手のがあって残念)ので、手帳に書き写してきました。どんな作品が展示されているのかをお伝えする意味もありますから、その一部をご紹介しましょう。

コロー《牧場の休養地》
ミレー《農場へ帰る羊飼い》
セザンヌ《サンタンリ村から見たマルセイユ湾》
モネ《サンジェルマンの森の中で》
マティス《白と緑のストライプのブラウスを着た読書する女性》
キスリング《背中を向けた裸婦》
カンディンスキー《ゆるやかな変奏曲》
シャガール《ダフニスとクロエ》

などなどです。印象派を中心にして、その前後の絵画がバランスよく集められたことがわかります。現在の社長・須藤永一郎氏、その父、祖父と三代にわたる絵画収集の賜物なのだそうですが、よくこれだけ趣味が一貫して引き継がれたものだと驚いてしまいました。

今回の展覧会の、私にとっての一番の収穫は、シャガールの《ダフニスとクロエ》でした。これは1957年から1960年にかけて制作されたリトグラフの42枚組みで、1961年3月に発行されました。会場では、42枚すべてが展示されているのです。順を追って書くならば、<扉><ラオモンによるダフニスの発見><ドリュアスによるクロエの発見><ラオモンとドリュアスの夢><小牧場の春><狼を捕らえる罠><泉のほとりのダフニスとクロエ>と始まり、<ニンフたちの洞穴での婚礼の祝宴><結婚>で幕となります。見終わったときの充足感は格別のものがありました。

順序は前後しますが、モネの《サンジェルマンの森の中で》は、空は青、木の葉は緑、地面は茶色といった固定観念から完全に抜け出た作品で、思わず足を止めて見入ってしまいました。ルノワールの《庭で犬をひざに抱いて読書する少女》を見たときには、思わず「あれっ?」と首を傾げました。過去に見た展覧会で「たぶんこれと同じだ」と思われる作品を見たことがあって、その時の所蔵先は確か山形の美術館だったような気がしたのです。ただし、だれかの寄託だったかもしれないなと思い、あとでザ・ミュージアムのHPを調べてみると、
美術作品は私蔵するべきでなく、少しでも多くの人に親しまれるべきであり、美術品の収集を通じて文化資本の蓄積に貢献するという方針のもと、現在、同社のコレクションは、創業の地が山形であったことから、洋画は山形美術館に、日本画は天童市美術館に寄託されています。
とありました。私蔵は死蔵につながりかねませんから、こうした姿勢は高く評価されてしかるべきでしょうね。創業して100年が経つ吉野石膏だそうですが、景気の悪いときもあれば、戦争の時代もあったはずです。そんな時は収集を一時停止したのか、続けていたのか、もし続けていたならばどのような苦心があったのか。残念ながらカタログなどを読んでも、そのあたりの事情まではわかりませんでした。
【2001年11月28日】


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